米国の核政策を定めた報告書「核態勢の見直し(NPR)」が2018年2月2日(米東部時間、日本時間3日)に8年ぶりに発表され、新たな小型核兵器や各巡航ミサイルの開発を表明した。「核なき世界」を掲げたオバマ前政権からの大転換だ。
日本政府は「核廃絶を主導」するとの立場だが、河野太郎外相はNPR発表直後に「今回のNPRを高く評価」するとの談話を発表した。河野氏は「高く評価しない理由はない」とも述べたが、これまでの立場と矛盾はないのか。
「我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています」
米国がNPRを出すのは今回が4回目で、オバマ前政権の10年以来8年ぶりだ。河野外相の談話では、前回のNPRが出た10年と比べて「北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等、安全保障環境が急速に悪化している」として、今回のNPRについて
「米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています。我が国は,このような厳しい安全保障認識を共有するとともに、米国のこのような方針を示した今回のNPRを高く評価します」
とした。核軍縮についても
「核廃絶を主導すべき我が国としては、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的かつ具体的な核軍縮の推進に向けて、引き続き、米国と緊密に協力していく考えです」
などと説明した。
逢坂誠二衆院議員(立憲民主)は、2018年2月5日の衆院予算委員会で、声明を
「(今回のNPRは)核兵器削減を主導する立場からどんどん後退しているように感じる。それでも高く評価するのか」
と問題視。
「NPRが前回と違っているのは当然」「高く評価しない理由はない」
河野氏は、安全保障環境が変化している以上、NPRが変わるのは「当然」だとした。
「オバマ大統領が(「核なき世界」を訴えた)プラハの演説をした時と比べると、北朝鮮の核・ミサイルの脅威というのはかなり進展しているのが現実。さらに中国の核戦力の増強、あるいは中国の各近代化計画における透明性の欠如、あるいは、ロシアがウクライナの紛争の中で見せたような限定的なエスカレーションに対するロシアの軍事ドクトリンに対する入れ込み、こうしたことはオバマ政権の時にはなかった。新たに進展してきた核の脅威だ。世界中の安全保障に対する脅威が変化するなかで、米国のNPRが前回と違っているのは、むしろ当然だと考えている」
さらに、談話でNPRを「評価する」としたことについては、日本の上空を北朝鮮のミサイルが複数回通過したことを引き合いに、
「我が国の国民の生命、あるいは平和な暮らしを守らなければいけない政府として、今回の米国NPRのように、きちんと同盟国に対して核の抑止力を明確にコミットしている、これを高く評価しない理由はないと思っている」
とした。
核軍縮・不拡散議員連盟(NPPD)のウェブサイトによれば、河野氏はこの議連の会長を務めている。質問した逢坂氏も、この議連のメンバーだ。今回の衆院予算委員会では、「心変わりしたのか」などと問われた河野氏は「何ら私の気持ちに変化があったわけではない」と答弁していたが、今後も過去の発言との整合性を問われる可能性がありそうだ。
「『核の傘』というものが本当に存在するのか、あるいは破れ傘ではないかという疑問」
14年4月のブログでは、PNNDメンバーとして「核兵器廃止への道筋」と題したNGO会議に出席した際、自らの発言内容を
「『核の傘』がどういうときに、どう使われるのかといった具体的な議論が国会でもほとんど行われず、『核の傘』というものが本当に存在するのか、あるいは破れ傘ではないかという疑問に対してもこれまで政府がほとんど答えてこなかった。そのため『核の傘』がどんな役割を果たすのかという議論ができず、何かでそれを代替できるのかという可能性を探る議論がスタートすらできていない」
「岸田外務大臣も、核兵器の数の削減に加えて、核兵器の役割の削減が必要だと訴えているわけで、それには当然、『核の傘』として提供される核兵器の役割も削減する必要がある」
などとまとめている。今回の答弁では「同盟国に対して核の抑止力を明確にコミット」した点を評価した河野氏が、わずか4年前には核抑止力への疑問をにじませていたとも読める。