国の制度融資で組織的な不正を繰り返した政府系の商工組合中央金庫(商工中金)を民営化させようという声が高まっている。組織の在り方を見直す経済産業省の有識者検討会が4年後の完全民営化を目指す方向性を打ち出したのだ。ただ、あくまでも「方向性」であって、確定ではない。リーマンショック(2008年)のような金融危機、経済危機時に中小企業の資金繰りを支えてくれる商工中金の完全民営化には異論が根強く、提言の文言は、4年間の取り組みの検証を踏まえ「完全民営化の実行への移行を判断する」との表現。果たして商工中金はどうなるのか。
2018年1月11日にまとまった提言の柱は、(1)不正の温床となった「危機対応業務」を大幅に縮小、(2)経営陣はトップを含めて社外の人材を登用、(3)地域金融機関と連携して中小企業支援に特化し、完全民営化を目指す――というものだ。
難しいかじ取り
このうち(2)については早速、次期社長に、関根正裕・プリンスホテル取締役常務執行役員(60)の起用が12日に発表され、3月27日の臨時株主総会を経て就任する。
商工中金の社長は、引責辞任する安達健祐・現社長ら経産事務次官OBが2代続いた。このため、政府は改革をアピールするため、不祥事が拡大した昨17年来、民間人を探してきた。ただ、大物財界人らには相次いで固辞されて関根氏にたどり着いたというのが実態。
関根氏は旧第一勧業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)時代の1997年、総会屋への利益供与事件で、改革派として同行の立て直しに参画。2005年には、堤義明・元コクド会長のインサイダー事件で上場廃止になった西武鉄道へ出向、第一勧銀出身の後藤高志・西武ホールディングス(HD)社長の右腕として鉄道やホテル事業の経営再建に手腕を発揮している。「知名度は低いが、実績は十分」(経産省筋)として白羽の矢が立った。
経営立て直しでは、職員の意識改革と組織、業務の見直しを並行して進めるという難しいかじ取りを求められるが、そこで(3)の新たな業務展開になるが、問題は補助金に頼らない融資の「目利き」を育てるということになる。
「危機対応融資」は国の利子補給を受けることによって低利融資を行うもので、リーマン・ショック、2011年の東日本大震災などで資金繰りが困難になった中小企業の「命綱」としての役割を果たした。一方、「平時」に戻ってもデフレ対策などを名目に続けられ、本来、そうした融資を受ける必要のない「優良企業」に対しても、決算をわざわざ悪く粉飾して貸し出すといった不正が全国ほぼ全支店で行われていた。危機対応融資を縮小し、他の金融機関が及び腰な新規事業者向けや、再生途上の企業を再建させる融資に軸足を移すということだ。
これは言うは易く、行うに難い。民間の銀行であっても、経営再建支援、有望ベンチャー発掘が叫ばれながら、十分にできていない。「国の信用を背景に低利で貸すという単純なビジネスしかしてこなかった商工中金に、高度なノウハウが必要な企業再生やベンチャー育成ができるのか」(大手銀行)との疑問は消えない。