身元不明で多くの記憶を失っている、としてテレビ番組で紹介された男性が、29年前に徳島県で行方不明になった当時4歳の男の子に似ている、との声が徳島県警に相次ぎ、県警が近く、男性のDNA鑑定を行うことになった。徳島新聞(ネット版)やTBSなどが報じた。
番組は2018年1月31日放送の「緊急!公開大捜索(20)18春~今夜あなたが解決する!記憶喪失・行方不明スペシャル~」(TBS系)。出演したこの男性が語った内容のキーワードは「軟禁」。番組内でも「徳島県で不明の4歳の男の子」との関連を指摘する声も紹介された。番組はどんな内容だったのか。DNA鑑定の結果にも注目が集まる。
外出は禁じられ「軟禁」
番組によると、男性は2014年7月、愛知県弥富市のショッピングセンター内トイレで意識不明の状態で見つかり保護された。過去の記憶は断片的にしかないが、一言でいえば「4歳の時から17年間、軟禁されていた」と語った。男性は現在、「和田竜人(りゅうと)」と名乗っており、25歳と推定されている。「竜人」という名前は、記憶から「合っていると思う」(和田については後述)。
男性の証言では、4歳くらいの頃、両親だと思われる人たちと乗用車に乗って移動、途中で寝てしまい、起きたら「おじさんの所にいた」。「おじさん」は知らない人で、50~60歳で身長が180センチ程の大柄で強面だった。場所は2階建ての一軒家だった。
これ以降、2人きりの生活が始まり、外出は禁じられた。1997年8月21日に「今日で5歳になった」と、「おじさん」から告げられた。外出の記憶は、15歳の頃に虫歯で「10回くらい」歯医者に通院したことだけ。「おじさん」に付き添われていた。
「理路整然と話している」「しっかりした人」
1度、外へ出ようとして叱られ、以降は逃げ出そうという発想もなくなっていたが、20歳ごろ、「おじさん」が寝静まった深夜に見たテレビニュースで児童虐待の話を扱っており、「自分と似てるな」と疑問を持ち始めた。以降は逃げ出すタイミングを探り、約1年後の2014年6月に逃げ出した。この時、家の表札を見ると「和田」だった。そして、翌7月、意識不明で発見される。
「おじさん」については、いつも家にいて、パソコンで表やグラフをよく眺めていたことから、「株をやっていたデイトレーダーか何かでは」と推測している。
逃げ出したあとの主な記憶は3点で、たどると、意識不明で発見された場所から南東へ93キロ、静岡県と愛知県の県境までさかのぼれたが、それ以前の状況は不明のままだった。
番組に出演したゲストのタレント、柴田理恵さんや小島瑠璃子さんらの男性への印象は「まじめ」「理路整然と話している」「しっかりした人」といったものだった。男性は、自身の素性について知りたい一方で、真実をすべて受け入れることができるかどうかは、自信がなさそうだった。
「目と鼻のあたりが似てる」と感想
番組は、録画インタビューや再現ドラマ、スタジオの生放送で構成され、後半には視聴者から寄せられた情報が紹介された。この中で、冒頭に触れた「29年前、4歳で行方不明」となり、公開捜索されていた「松岡伸矢君」の写真と似ているという指摘が登場。スタジオ陣がパソコン画面で「松岡伸矢君」の写真を見て、出演男性と「目と鼻のあたりが似てる」といった感想をもらしていた。
一方で、不明になったのは1989年(当時4歳)で、今は32歳ごろになっているとも番組では指摘した。男性の記憶にある「25歳」とは開きがある。男性の「1997年8月21日に『今日で5歳になった』と告げられた」という記憶の日付けが正しければ、伸矢君なら5歳ではなく12、3歳だったことになる。
徳島県警の公式サイトなどによると、伸矢君は、1989年3月、4歳の時に茨城県から徳島県貞光町(現つるぎ町)に帰省中、両親が「40秒ほど」(徳島新聞)目を離した間に行方が分からなくなった。当時、現場近くの山林で大がかりな捜索が行われたが、見つからなかった。県警サイトでは「拉致の可能性を排除できない事案に係る方々」の中の1人として情報が当時の顔写真付きで公開されている。
県警によるDNA鑑定方針は、2月1日夜に産経新聞(ネット版)が報じたほか、2日には徳島新聞(同)やTBSの昼ニュースでも伝えられた。徳島新聞の記事には、伸矢君の父正伸さん(60)のコメントも載っており、「皆さまから心配の声をいただき大変ありがたい。DNAが一致すればいい。テレビに出演した男性の情報が集まってほしい」と答えている。