平昌五輪をめぐり、また北朝鮮が韓国に揺さぶりをかけている。事前調査のための視察団の派遣日程を二転三転させたのに続き、2018年2月初めに北朝鮮の金剛山(クムガンサン)で開催することになっていた合同文化行事の中止を一方的に通告してきた。
ところが韓国側では、この通知が韓国側への「配慮」によるものだという、にわかには信じがたい見方も出ている。開会式の前日に北朝鮮が軍事パレードを行うとみられることについても、韓国政府は「偶然」だとの見方を対外的には示しており、開幕まで2週間を切る段階で際立つ韓国政府の「お人よし」ぶりに、保守系メディアからは苛立ちの声があがっている。
韓国メディアが「北朝鮮の誠意ある措置を冒とくする世論を拡散」
韓国統一省の発表によると、1月29日22時過ぎ、北朝鮮側から行事の中止を通知する文書が送られてきた。その中で、北朝鮮側は中止の理由を
「韓国メディアが平昌五輪に関連して、北朝鮮がとっている誠意ある措置を冒とくする世論を拡散している。そういった中で北朝鮮内部の慶祝行事にまで言いがかりをつける以上、合意した行事を取り消さざるを得ない」
と主張したという。
北朝鮮は1月22日、2月8日を朝鮮人民軍創建日(建軍節)に定めて「多彩な行事を有意義に催す」と発表していた。2月8日は平昌五輪開幕の前日で、「多彩な行事」に軍事パレードが含まれるとみられることから、韓国側から五輪への悪影響を懸念する声が相次いでいた。そのため、2月8日の「慶祝行事」への批判に反発する形で北朝鮮が行事中止を通告したと読み取ることもできる。
韓国メディアでは、それとは別の様々な解釈が出ている。中央日報は、宋永武(ソン・ヨンム)国防相が1月29日にシンガポールで行った講演の質疑応答で
「北朝鮮が核を使えば北朝鮮政権は地図から消されるだろう」
などと述べたことに「北朝鮮が不満を抱いたかもしれないという見方もある」と指摘している。
発電機の燃料を持ち込むと「制裁履行に消極的」?
もうひとつの驚くべき見方が「北朝鮮が韓国に配慮した」説だ。北朝鮮は電力事情が厳しいため、韓国側は発電機と暖房機器、そのための軽油1万リットルを持ち込んで行事を行うこと計画していた。ところが、17年12月に国連安保理で採択された北朝鮮に対する制裁決議第2397号では、ガソリンや石油など石油精製品の輸出を年間50万バレル(約8000万リットル)に制限している。今回の行事のために韓国が燃料を北朝鮮にも持ち込んだとしても上限までには余裕があるが、それでも米国や日本からは「制裁履行に消極的」だと言われかねない、との見方も出ていた。聯合ニュースは、こういった状況を
「北朝鮮はこれに不満を感じた可能性がある。あるいは北朝鮮への石油精製品の供給を制限する国連制裁に反するとの指摘を受けた韓国政府への『配慮』との見方もある」
と伝えた。
開会式前日の軍事パレードを「偶然」と主張する韓国政府
上記の2月8日の「慶祝行事=軍事パレード」をめぐっても、韓国政府では北朝鮮を「信用」する声が出ているようだ。保守系の朝鮮日報は1月29日付の社説で、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一相や青瓦台(大統領府)の幹部が、軍事パレードと開会式の日程が1日違いになったことを「偶然」と発言したことを問題視。過去のミサイル発射のタイミングなどを引き合いに
「北朝鮮は何かを実行に移す際、その政治的な効果が最大限に高まる日をあえて選ぶ」
として、今回の軍事パレードの日程を設定した狙いは
「世界の注目が集まるチャンスを利用したいから」
と分析した。韓国政府はこういった北朝鮮の意図を理解しながら「偶然」と強弁せざるを得ないことに
「もはや北朝鮮の言い分を自ら代弁する立場にまで成り下がってしまった」
と嘆いた。