伊藤忠商事が2018年1月18日、社長交代を発表した。4月1日付で、岡藤正広社長が会長兼CEO(最高経営責任者)、鈴木善久専務執行役員が社長COO(最高執行責任者)になる。岡藤社長は在任8年間で連結純利益を業界4位から2位に引き上げ、歯に衣着せぬ発言も注目を集める存在だけに、その去就は総合商社のトップ人事の最大の関心事だった。
後任の鈴木氏は、社長候補としてはダークホースとだったと言える。これまで有力候補と見られてきたのは、岡藤氏の側近で最高戦略責任者(CSO)の岡本均専務執行役員、伊藤忠インターナショナル会社社長兼CEOの吉田朋史専務執行役員のほか、アジア・大洋州総支配人の福田祐士専務執行役員、金属カンパニープレジデントの米倉英一専務執行役員ら。岡藤氏の続投説もなお根強かった。
元社長側近を排除
鈴木氏は2003年に48歳で執行役員に昇格するなど、早くから社長候補と目されていた存在だったものの、11年3月に常務執行役員を退任して同6月に伊藤忠の子会社で航空機用内装品メーカー「ジャムコ」に転出。いったん候補から完全に外れた形になっていた。16年4月に伊藤忠の専務執行役員として返り咲いたが、岡藤社長とそりが合わないとされる丹羽宇一郎元社長の秘書を務めた経験から、「丹羽側近」(伊藤忠幹部)とされる。徹底的に丹羽側近を排除してきた岡藤社長の性格からも、鈴木氏は実力者であるものの後任候補に名前が挙がることは少なかった。
岡藤氏は社長交代会見で、鈴木氏を後任に選んだ理由について、AI(人工知能)やフィンテックなどの先端技術を扱う情報・金融カンパニープレジデントとしてITに通じていることやジャムコを再生した経験も挙げたものの、むしろ記者会見で「(権力への)野心がなかったから。野心がない人の方がうまくいくんじゃないか」と説明したことに、関係者の注目が大いに集まった。