人気ラノベ作家の新作が、刊行直後にまさかの「打ち切り」――そんなちょっとした騒動が、オタク業界を騒がせている。
話題となっているのは、SBクリエイティブのライトノベルレーベル「GA文庫」から2018年1月に刊行されたばかりの『異世界テニス無双 テニスプレイヤーとかいう謎の男がちょっと強すぎるんですけど!』だ。
最強のテニス選手がファンタジー世界で大暴れ
作者の望公太(のぞみこうた)さんは、2011年のデビュー以来10タイトルを刊行している売れっ子作家だ。14年には「異能バトルは日常系のなかで」がアニメ化、ファンの注目を集めた。
「異世界テニス無双」はその望さんの最新作として、1月中旬から書店販売が始まった。
現代日本の人間が、剣と魔法のファンタジー世界に召喚され、悪魔やモンスターなどを相手に戦う――現在、ラノベ界で大流行の「異世界モノ」のテンプレートに沿った本作だが、異色なのはその主人公が「テニスプレイヤー」という点だ。しかも、物理法則を無視した必殺打法を繰り出し、ラケットとボールだけでモンスターたちを軽々倒してしまう。作中での表現を借りれば、
「能力のインフレーションが加速し、もはや完全なる異能バトルと化したスポ根漫画のキャラクターがファンタジーの世界にやってきたような、そんな物語」
なのである。
ゴブリンをサーブ一撃で絶命させ、ドラゴンと遭遇すれば炎をラケットでかき消し、分身するボールでモンスターの群れを全滅、悪党の攻撃を「残像」でかわす。そんな戦いが、まるまる一冊繰り広げられる。荒唐無稽ではあるが、楽しく読める冒険活劇という印象だ。
「テニスの王子様」に似過ぎ、との声が...
ところが、本作が発売されると、ネット上でざわめきが起こった。週刊少年ジャンプなどで連載された許斐剛さんの「テニスの王子様(テニプリ)」シリーズに「似過ぎているのでは?」という声が上がったのだ。
テニプリは現実世界を舞台としたテニス漫画だが、主人公たちはほとんど超人じみた能力を持ち、分身する、相手を吹き飛ばす、会場を破壊するなどなど、トンデモな必殺技を繰り出し合って戦う。まさに、「完全なる異能バトルと化したスポ根漫画」だ。ファンは本作を、「『テニプリの』キャラクターがファンタジーの世界にやってきた」物語ではないか、と受け取ったのである。
実際、主人公の通う「陽帝学園」は、テニプリの「氷帝学園」をもじったような名前だし、必殺技の演出や選手たちの異名も、テニプリを思わせる部分が少なくない。またファンの中には、主要人物の造形や、挿絵や表紙でのキャラの絵柄、デザインが、テニプリのそれを思わせる、と指摘する人もあった。
作者の望さんは1月14日のツイッターで、
「局所的に話題沸騰中の『異世界テニス無双』ですが、この作品はとあるテニス漫画から多大なインスパイアを受けています。週刊少年ジャンプで連載していた、超有名テニス漫画です。みんな、察してるよね?
そう......『テニスボーイ』です!
1970年台に連載してた、名作テニス漫画です」(原文ママ)
とジョークまじりに発言していたが(すでに削除)、ファンからはこの発言も反感を買った。
孫正義氏へ「直訴」する人まで
「テニスの王子様」は女性を中心に、熱心なファンが多い漫画として知られる。毎年バレンタインデーには、キャラ宛てのチョコレートが合計10万個以上も届くことは有名だ。
読者からは「個人的にはメチャクチャ面白かったし、続きが読みたい」といった好評もあったが、テニプリファンなどからは、パロディーの域を超えているとして、
「元の作品からキャラクターの名前を変えて自分のキャラクターにしないでください」
などという声が殺到、中にはソフトバンクグループの長・孫正義氏にツイッター上で「直訴」する人まで出た。
結局、SBクリエイティブは1月26日、
「他の作品との類似のご指摘を含め、多くのご意見をいただいております。読者の皆様、関係者の皆様にご不快な思いをさせてしまいましたこと、ご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます」
とするコメントを発表、また合わせて予定されていた2巻以降の刊行も打ち切るとした。J-CASTニュースは29日、詳しい話を聞こうと問い合わせたものの、「リリース以上のことはコメントできない」との回答だった。