中学生棋士の藤井聡太四段が大活躍しているが、本の世界でも、早熟の「神童」に注目が集まっている。
文系では14歳の小説家、鈴木るりかさん、理系では『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』を出した近藤龍一さんだ。
「中学生が書いたとは思えない」
鈴木さんは2003年10月生まれ。「鈴木」はペンネームで本名は明かしていない。都内の私立女子中の二年生。小学4年生のときから3年連続で小学館主催の「12歳の文学賞」で大賞を受賞した。それらをもとに新たな書き下ろしも含めて2017年10月16日、デビュー作『さよなら、田中さん』を出版した。5作品の短編連作集だ。すでに5刷になり、5万部に迫っている。
作品は小学校6年生の「はなちゃん」が主人公。学校や家庭、近所で体験した「ほっこり」する話が多い。妙に大人びない「子ども目線」が新鮮だ。全国紙でも紹介され、著名人も大絶賛。小学館によると、中学一年生の子役俳優、鈴木福くんからは「同じ中学生が書いたとは思えない」、直木賞作家の道尾秀介さんからも「読めてよかった」など多数のコメントが届いている。
小学生のときに、小説を書いて「12歳の文学賞」に応募しようと思ったのは、副賞の図書カードで月刊少女漫画雑誌「ちゃお」を一生分買いたかったからだそうだ。将来は、「多くの人の心に光を残せる小説家になりたい」という。
中学受験の2日後に書き始めた
『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』を出した近藤龍一さんは2001年生まれの16歳。こちらは実名で、現在は都内の中高一貫高校の一年生だ。
子供のころからジャンルを問わず本を読みまくっていた。年間3000冊読んだこともあるという。10歳のころから物理や数学の独学を始め、11歳の時、理系の本を書いてみたいと思うようになった。
なぜかというと、理論物理、とりわけ量子力学の本は、専門書と入門書の差が激しすぎる。両者の間に何かもう一つ、両者をつなぐような本が必要ではないかと考えたからだという。近藤さんの用語でいえば「中間書」。それがあれば、難解とされる量子力学が、もっと理解されやすくなるのではないかと。
原稿に着手したのは2014年の2月。中学受験の2日後だ。それから約7か月で書き上げた。したがって、タイトルには執筆当時の年齢「12歳」が記されている。17年7月に発売され、現在までに8刷と好調だ。
読者からは「12歳なのに凄すぎる」と驚きの反響の一方で、誤植などの指摘もあった。出版社がホームページで公開しているが、12歳当時にして「シュレーディンガー方程式」や「量子コンピューター」に言及しているのだから、少々のミスはご愛嬌だ。
依田紀基さんは「どん底」
こうした「神童」たちは長じてどうなるのだろうか。かつて囲碁の世界で神童と言われ、名人にもなった依田紀基さん(51)の近著『どん底名人』が参考になるかもしれない。
中学3年でプロデビュー。いきなり11連勝し、稀にみる有望新人として脚光を浴びた。17歳5か月で新人王戦に優勝。名人4期、碁聖6期、NHK杯優勝5回など90年代後半から2000年代初頭にかけて圧倒的な強さで囲碁界に君臨した
だが、現在は棋士として低迷している。それだけではない。私生活も含めた人生全般において「どん底」だというのだ。「私はこの本を遺書のつもりで執筆した」と言うから穏やかではない。本書では、なぜそんなことになったのか、縷々記している。「神童」といえども、大人になってからの人生は平たんではないという一例だろう。
ネットでは現在の低迷を残念がり、「もう一花咲かせてよ。井山裕太を吹っ飛ばしておくれよ」(アマゾンのレビュー)など、再起を期待するエールが少なくない。