人を不快にさせるような要素がない
快進撃の余波は図書館にも波及している。どこの図書館でも予約が殺到し、「借りられない」状態が続いているのだ。
東京・港区の図書館ではこのところ3か月連続で予約ランキングの1位。1月19日現在で817人が順番待ちをしている。区内の図書館には合計23冊しか置いてないから、借りられるのは相当先、来年になりそうだ。買う方が早い。『マスカレード・ナイト』、『コンビニ人間』、『騎士団長殺し』なども予約が多いが、『蜜蜂』とはかなりの差がある。『九十歳。何がめでたい』は10位以下だ。
東京・八王子市の図書館でも、1月19日現在の予約順位では『蜜蜂と遠雷』がダントツのトップ、大阪市の公立図書館では約1800人が順番待ちで、他作品を圧している。発売から3年目に入っても、これだけの人気を続けるのは異例だ。
「小説から音楽が聞こえてくる」といわれるほど、多数の名曲が登場し、それぞれについての描写も巧みだ。コンクール出演者の孤独や苦悩も掘り下げられているので、小説好きだけでなくコアなクラシック音楽ファンにまで読者層が広がっているようだ。
CD「蜜蜂と遠雷 音楽集」を出したナクソスの特設サイトでは、本書の担当編集者、幻冬舎の志儀保博さんが恩田さんとの長い付き合い、出版までの辛抱の日々を明かしており、ファンにとっては興味深い。志儀さんは作品の魅力についてこう語っている。
「この物語は人も死なないし、いじわるな人もいないし、あまり人を不快にさせるような要素がないことがたくさんの人に受け入れられた理由かなと思っています」