安倍晋三首相が2018年2月9日に開幕する平昌五輪の開会式に出席する意向を表明した。自民党内からは方針に反発する声が止まないが、米国が北朝鮮問題をめぐり日韓米の連携を求めていることに加え、世論も出席に前向きなことが安倍首相の決断を後押ししたようだ。
ただし、安倍首相の演説を見る限り、日本政府にとっての韓国の重要度は低下を続けている。韓国メディアは、日本側が慰安婦問題をめぐり強い態度になれば「(韓国側が)顔を赤らめる状況が演出される」とも指摘しており、紛糾する可能性もありそうだ。
ペンス副大統領、訪韓で「同盟国に対する米国の揺るぎないコミットメントを再確認」
安倍首相は1月24日、開会式出席と合わせて文在寅(ムン・ジェイン)大統領と首脳会談を行いたい考えを報道陣に対して明らかにし、
「日韓の慰安婦合意について日本の立場をしっかりと伝えていきたい。北朝鮮の脅威に対応していくために、日韓米でしっかりと連携していく必要性、最大限まで高めた圧力を維持していく必要性について伝えていきたい」
と述べた。安倍首相が言及した、3か国で「連携していく必要性」は米国も強調している。ホワイトハウスは1月10日(現地時間)、ペンス副大統領が五輪代表団を率いて開会式に出席すると発表。ソウルや東京を訪問し、アラスカにある弾道ミサイルの迎撃施設も視察する。ホワイトハウスの発表では、訪韓の目的を
「朝鮮半島における米国の強いプレゼンスをさらに強化し、北朝鮮の体制に対して米国の決意に関する明確なメッセージを送る」
「日韓の指導者に対して、同盟国に対する米国の揺るぎないコミットメントを再確認する」
と説明していた。そのため、日本政府では、どのレベルの要人を訪韓させるかが懸案になっていた。
産経調査でも開会式「出席すべき」の方が多い
国内世論は慰安婦問題をめぐる韓国の対応にはきわめて否定的だが、実は開会式出席への拒否感はそれほど強くない。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が1月20、21日に行った世論調査では、「日本に追加対応を求める文在寅(ムン・ジェイン)大統領の方針に納得できるか」の問いに「納得できる」はわずか5.4%で、「納得できない」が90.8%を占めた。ただ、「安倍首相は開会式に出席すべきか」という問いには、「出席すべきだ」が49.5%で、「出席する必要はない」の43.1%を上回った。
朝日新聞社が同時期に行った調査でも同様の結果が出た。慰安婦問題をめぐる韓国政府の対応に「納得できますか」という問に「納得できる」8%に対して、「納得できない」が79%だった。平昌五輪開会式について「出席した方がよいと思いますか」という問いには、「出席した方がよい」53%、「そうは思わない」30%だった。こういった状況が安倍首相の判断に影響した可能性もある。
首脳会談は平行線で終わる?
ただ、日本にとっての韓国の外交的重要性は低下を続けている。14年の施政方針演説や所信表明演説では、韓国について「基本的な価値や利益を共有」する「最も重要な隣国」だと説明されていたが、15年2月の施政方針演説では「最も重要な隣国」に変化。17年1月の施政方針演説でも同様に
「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」
の表現だった。ところが、18年1月22日の施政方針演説では韓国について
「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とは、これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で、新たな時代の協力関係を深化させてまいります」
と触れただけで、韓国の位置づけを示す「枕詞」すらなくなった。
韓国側は青瓦台(大統領府)が安倍首相の訪韓を「歓迎する」との声明を出したものの、韓国メディアでは首脳会談が平行線で終わるとの見方が出ている。朝鮮日報は、日本側が合意履行を要求した場合は
「『過去の政府の合意で慰安婦問題が解決されたとは言えない』という一貫した立場を示すだろう」
とする青瓦台関係者の声を伝えながら、
「韓日首脳会談で顔を赤らめる状況が演出されることもあるということだ」
と解説。会談が紛糾する可能性に言及した。東亜日報も、韓国側が
「過去の政府の合意で慰安婦問題が解決されたとはいえない」
との立場を表明する見通しを報じている。
こういった冷え込んだ日韓関係の中での政治決断から、どういった成果が得られるか注目される。