サルの体細胞を使ったクローン技術で、遺伝的に同じ情報をもつカニクイザル2匹が誕生した、と中国科学院の研究チームが発表した。霊長類では初めて。
国内でも各メディアが報じ、中には「クローン人間」への技術応用の可能性に触れる社も。今回の発表について、ツイッターでは、医療的な研究が進むことへの期待の声が出る一方、「クローン人間」の誕生を危惧して「怖い」とつぶやく人も相次いだ。
「クローン人間の誕生に近づくことにもなり、議論を呼びそうだ」
2018年1月24日付で、研究チームがアメリカの科学雑誌「セル」に論文を発表した。1997年に発表されたイギリスのクローン羊「ドリー」と同じ、体細胞クローンを使った技術でクローンサルを誕生させたという。研究チームでは、ネズミなどの動物実験では解明できない病気の仕組みの研究などに役立つと期待している。
このニュースを報じた国内メディアの中には、
「クローン人間を生み出すことにもつながりかねないため、今後議論を呼びそうです」(NHK、25日)
「クローン人間の誕生に近づくことにもなり、議論を呼びそうだ」(朝日新聞、25日付朝刊)
「今回の体細胞クローンはヒトでも応用できる可能性がある」(同上)
「今回の手法は、理論的にはヒトにも応用できる」(CNN日本語ネット版、25日)
と、クローン人間に触れるところもあった。また、クローン人間を作ることは、日本を含む多くの国で法令で禁止されていることも紹介している。
「怖い。考えただけでゾッとする」
こうした報道を受け、25日にツイッターには、
「医療でものすごく役に立つね」
といったプラス評価もあったが、クローン人間の可能性に触れた否定的な声も多く投稿された。
「いつか、ヒトがクローン完成したら怖い。考えただけでゾッとする!!」
「倫理とか平気ですっ飛ばして一気に人間まで到達しそう」
「サルのクローンができたとか、やばいじゃん。人間でもいつかありそう、怖い」
といった調子だ。中には、2017年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の代表作のひとつ『わたしを離さないで』を連想した人もいた。同作品は、臓器提供のために生み出されたクローン人間を描いている。
「小説/映画『わたしを離さないで』の世界に浸っているこの頃なので、このニュース、僕にはきつい」
「意外と既にクローン人間が存在してたりして...わたしを離さないで」
などの反応だ。
10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金
クローン人間の禁止は、国内では「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(2000年公布、既に施行済)で定められている。人クローン胚などを「人又は動物の胎内に移植してはならない」との条文に違反すれば、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金に処される(懲役と罰金を両方科される場合も)。
文部科学省によると、国際的には世界保健機構(WHO)が、クローン技術の人への適用は容認できない、とする決議を1997年に行っている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)も、「人のクローン個体産生は人の尊厳に反する禁止すべき行為」とする世界宣言を97年に出した。各国でも、イギリスやドイツ、カナダなどで「人のクローン個体の産生の禁止」をうたった法令が定められている。また、関係委員会資料によると、中国では2003年に生殖補助医療規定で人クローン個体の作成が禁止されるなどしている。
こうした法令的な縛りはともかく、今回、人クローンの技術的な可能性が現実味を帯びたことで、ツイッターに多く寄せられた懸念の声は、必ずしも杞憂とは言えないようだ。国際通信社の大手AFPが2015年12月3日に配信した記事(日本語版)の見出しは「『クローン工場』建設の中国科学者、ヒト複製の野心語る」。
同記事によると、中国人科学者が、現在はヒトのクローン作製には従事していない、とした上で、反発を生むので自制する必要があるが、社会の価値観は変わり得ると指摘し、将来的に人間が「子孫を残す方法について、より多くの選択肢を持つようになるだろう」との考えを示したという。