首都圏では4年ぶりとなる大雪が、家路を急ぐ通勤客の足を直撃した。2018年1月22日夕以降、鉄道各線の主要駅は早めに職場を出た利用者であふれかえり、入場規制や列車の遅延が頻発した。
これほどの規模の降雪はめったにないが、鉄道各社なら当然、雪対策はしているはずだ。帰宅でヘトヘトになった身としては、ボヤきたくもなる。「前も大雪だったことがあるのに、何でまた遅れるんだよ!」。J-CASTニュースでは、JRや私鉄に大雪による遅延の理由を聞いてみた。
渋谷駅のホームで1時間、混雑の中を待ち続けた
夕方18時ごろ、記者は東京・渋谷駅にいた。ツイッターでは「駅がごった返している」「入場制限で長い列」といった投稿を目にしており、覚悟はしていた。
東急東横線の改札に近づくと、入場制限は行われていない。「しめた」と定期券をかざして中に入った。ホームへ降りる階段の手前から列になっていたが、5分ほどでホームに到着。だが、ここからが長かった。すでに立つのがやっとの混雑。電車は大幅に遅れ、数台見送らないと乗車は不可能だ。来る電車はぎゅうぎゅう詰めでドア開閉がうまくいかず、なかなか発車しない。車内で待っている間に体調を崩す乗客が出て対応が行われ、さらに出発が遅れる。
待つこと1時間、4台目に乗り込めた。電車も徐行運転で、帰路はいつもの3倍近く時間を要した。幸い客同士や駅員とのトラブルは一切目にしなかった。
この日渋谷駅では、16時半過ぎには混雑による入場制限が始まっていたようだ。都心のターミナル駅ではどこも似たような状況が起きていた。勤務先から早めの帰宅を促された多くの人たちが、夕方のラッシュアワーを前に駅に詰めかける一方、雪の影響で電車が「間引き運転」となって本数が減少。電車を待つ客が乗車しきれないうちに続々と家を目指す人が駅に押し寄せ、ホームから改札外まで長い列になったわけだ。
J-CASTニュースは、首都圏を走る鉄道各社に、運行上の具体的な雪対策について取材を依頼した。また、対策をとっていても22日のような大雪になると遅延や駅の混雑が発生するのはなぜか、合わせて問い合わせた。
想定を上回る大勢の利用客が早めに駅に来た
最初に回答してくれたのは、東急電鉄だ。広報部によると大雪対策は「多岐にわたります」。ごく一部だが、対応する職員の増員、融雪剤をまく、線路が凍らないように回送電車を走らせる、といった例を挙げた。
次に大雪時は電車が滑りやすくなり、運転時の視界が悪くなるため、安全を考慮して徐行運転する規定があると説明。運行本数を減らすのも、安全のためだ。1月22日のケースでは、早めの帰宅を目指した利用客が集中し、乗りきれない多くの人があふれた。各駅で同じような事態が起き、電車を待つ人は増える一方。ただでさえ通常より少ない運行数、しかもゆっくり運転なので、遅延につながってしまった。東急電鉄では「安全上、速度を落としての運転が必要となります。どうかご理解ください」とのことだった。
西武鉄道広報部からも、早々に回答が届いた。積雪・降雪に備えて準備している道具や機械には、線路のポイントの融雪器、踏切やホーム上に散布する融雪剤、山岳路線降雪状況監視のためのカメラ、除雪機、スコップや長靴の常備がある。また降雪時に備えて、車両上(パンタグラフ)の除雪訓練や特殊な運転の訓練、また脱線復旧等を含めた「総合復旧訓練」を毎年実施。1986年3月23日、西武新宿線田無駅で大雪の影響により列車の追突事故が発生、多数の負傷者を出した。同社の「事故情報展示室」には当時の状況や、対応にあたった職員のコメントが記録されており、職員の講習に役立てている。
雪対策に力を入れていることは間違いない。それでも遅延が発生するのは、やむを得ないのか。同社は最初に「電車の遅れ・運休が発生し、お客さまにはご迷惑をおかけします」とした後、「対策は講じておりますが、安全を最優先に運行しておりますので、降雪によりブレーキがかかりにくい時は速度を落とした徐行運転をしたり、ホーム上にお客さまが多くいらっしゃる場合は発車までお時間がかかってしまったり、駅構内への入場を規制させていただくこともございます」と説明した。すべての対策は乗客の安全確保のためであり、「今後ともご理解・ご協力いただければと思います」とコメントした。
東京メトロの場合、大幅な遅延や相互直通運転中止、運休の恐れが出たら、公式ウェブサイトやツイッターで周知する。地下鉄でも一部地上を走る電車があり、線路凍結を防ぐために地上部の全駅に電気融雪器を作動させると、広報部は答えた。夕方のラッシュ前に運行本数を増やしてラッシュ時に過度に客が集中するのを防ぎ、営業終了後には除雪用の臨時列車を走らせて電車線に雪が積もって凍結するのを防ぐ工夫もしている。
1月22日も、ラッシュ前から運行本数を増やして準備した。しかし想定を上回る数の人が早めの時間に家路についたため、駅が混雑した。安全のために運行スピードを落とし、また相互直通運転をしている他社線でも同様の措置を取ったことから、大きな遅れにつながったとみる。
車両や施設を改善、4年前を踏まえた対策、それでも...
京王電鉄広報部は、降雪時の車両や施設における対策として、着雪面が少ないパンタグラフの採用やヒーターを内蔵した電線の使用、地下駅を除くすべてのポイントに電気融雪器を設置、また2015年秋に導入した事業用車両(牽引車両)には排雪板を装備したという。降雪が予想される場合、事前に動員態勢や夜間作業実施の有無、電気融雪器の使用、利用客への情報提供といった内容を対策会議で話し合う。他社同様、凍結や積雪を防ぐため回送電車を走らせる措置も、状況に応じて取っている。乗客に向けては、降雪時の列車運行で想定される影響について、駅構内や車内に「お願い」のポスターを掲出し、駅の改札口付近にあるディスプレーを使って、降雪対応の情報提供を行う。
対策を講じた場合でも運行が遅れることについては、
「雪の場合、事故防止の観点から、状況によって速度制限の実施や通常よりブレーキ操作を行う距離が長くなります。また、夕方以降の帰宅ラッシュ時にお客様の混雑が集中することなどから、結果的にダイヤ通りの運行を行うことが難しい状況です」
とこたえた。
JR東日本では、2014年2月に首都圏で起きた大雪の際に新幹線や在来線で輸送障害が起きたため、同年5月8日に「雪害に対する取り組み」を発表している。首都圏在来線では、例えば、ポイント不転換防止のため電気融雪装置の整備や、除雪車量の増備、降雪状況を確認するための沿線監視カメラの設置などが進められてきた。
だが今回の1月22日の大雪でも列車遅延が発生したことに、同社広報部は、事前に降雪予報が出ていたので乗客に向けて周知はしていたものの、平日の日中はもともと運行本数がそれほど多くなく、加えてその時間帯に早めに帰宅しようと多くの人が乗車しようとしたため、結果的に遅れにつながってしまったという。合わせて、雪害対策を行なってはいるものの100%防ぐことは難しく、「大変ご迷惑をおかけしました」とコメントした。