東京証券取引所の「初夢」は不発に終わったのか――。ロイター通信が2018年1月12日までに報じた内容によると、東証は、サウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコが18年中に予定する上場先の候補から「落選」したという。最大1000億ドル(約11兆円)とも言われる巨額の新規株式公開(IPO)をめぐって世界の取引所が火花を散らす中、サウジ政府側は「上場先はまだ決まっていない」との公式見解を示しているが、東証の旗色は悪そうだ。
サウジ政府は、ムハンマド皇太子が進める経済構造改革の一環としてアラムコの上場を予定している。国内外の取引所に株式の最大5%を上場、最大1000億ドルを調達する計画だ。調達資金を先端技術などに投資し、新たな産業を育てることで、原油権益に依存してきたサウジの産業構造を変える狙いがある。
NYやロンドン、シンガポール、香港などの取引所が上場誘致
サウジは国外の2~3の取引所を上場先として検討しているとされ、まれにみる巨額のIPOを狙ってニューヨークやロンドン、シンガポール、香港などの取引所が上場誘致を繰り広げている。
2~3の取引所のうち「一つはアジア枠」との見方から、東証も誘致に名乗りを挙げた。名だたる世界の取引所がライバルとあって、当初から「泡沫候補」「夢物語だ」との見方が多かったものの、「少しでも可能性があるなら挑戦すべきだ」(東証関係者)と大逆転を目論んだ。
東証の親会社、日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)は自らサウジを訪れ、熱心に上場を呼びかけた。日本政府も、安倍晋三首相が昨17年3月、46年ぶりに来日したサウジのサルマン国王と会談し、アラムコの東証上場に向けた協議を進めることで合意。18年1月には世耕弘成・経済産業相がサウジを訪問してファリハ・エネルギー産業鉱物資源相に「最後のお願い」を行うなど、全面的な支援体制を敷いた。日本の市場関係者の間でも、アラムコの東証上場が実現すれば、「1800兆円に上る日本の個人金融資産を呼び込む起爆剤になる」(大手証券幹部)との期待が高まった。
復活に向けての起死回生策
だが、熱烈なラブコールが届いているのかは微妙だ。報道によれば、サウジは国外の上場先候補をニューヨーク、ロンドン、香港の3か所に絞ったもよう。東証の劣勢について、市場では「日本語の開示資料の作成業務などがハードルになっているのではないか」といった見方が出ている。
1980年代のバブル経済期、東証は世界中から資金を集め、海外企業の上場も100社以上に上った。しかし、その後の景気低迷で現在は1ケタまで落ち込んでいる。それだけに、アラムコの上場は復活に向けての起死回生策。今回の報道について、JPXは「(東証が落選したという)事実は把握していない」と平静を装うが、内心穏やかではないようだ。
2017年から上昇基調が続く日経平均株価は、18年に入ってもバブル崩壊後の最高値を更新している。市場活況も追い風に、JPXは目標に掲げる「アジアで最も選ばれる取引所」の実現に向け、今後もアラムコを含めた海外企業の上場誘致に注力する方針だ。東証が再び世界的な資本市場として返り咲けるのか、JPXの手腕が問われる年になりそうだ。