コンピューターの対戦型ゲームで腕を競い合う大会が、世界各地で開かれるようになった。「eスポーツ」の名で広まり、優勝者が高額の賞金を手にする大会もある。国際サッカー連盟(FIFA)や米プロバスケットボール協会(NBA)もeスポーツに「参戦」し、将来は五輪の種目に追加される可能性も出てきた。
一方で、長時間ゲームをプレーし続け、日常生活に支障をきたす「ゲーム依存症」の問題は、いまだに解決していない。
「東京五輪でエキシビション大会を」議連が要望書
インターネット上には、eスポーツのイベントの動画がいくつもある。格闘ゲームでは1対1の対戦で、画面上の激しいバトルの末に勝者はガッツポーズ、敗者はうなだれ、観戦者は大興奮という映像がしばしば見られた。
日本eスポーツ協会(東京都渋谷区)のウェブサイトによると、1990年代にインターネットの普及でゲームのスポーツ化が加速し、2000年になるとeスポーツという単語が使われ始めた。06年には、アジアオリンピック評議会による第2回アジア室内競技大会で正式種目として採用された。
いまや国際イベントとして開かれる。FIFAは「FIFAインタラクティブワールドカップ」を主催。国際オリンピック委員会(IOC)は、eスポーツを競技種目として採用するかどうか検討を始めるとの報道も出ている。このことを意識してか、17年12月8日には「eスポーツ議員連盟」の河村建夫・元官房長官らが東京都の小池百合子知事と面会し、20年の東京五輪・パラリンピックで「eスポーツのエキシビション大会を開催してほしい」と訴え、要望書を手渡した。
日本より一足早くeスポーツが定着した国のひとつが、韓国だ。ノンフィクションライターの芦崎治氏が09年に著した『ネトゲ廃人』(リーダーズノート刊)のなかに、同氏がソウルにあるeスポーツスタジアムを訪れた様子が書かれている。スポーツ競技を観戦するようにゲームの試合を見られる施設だ。当時は300人のプロ選手が登録され、対戦が行われた。実際に観戦に足を運んだ同氏は、「ステージ前の座席はすでに満席で、後ろは立ち見の若者たちの熱気でムンムンしている」「若者たちはモニターを仰ぎながら、攻防の一進一退に『オーッ!』『アーッ!』と、どよめき、時には拍手を送った」と描写した。
韓国は09年の時点で、eスポーツが始まって10年。プロリーグが存在し、ケーブルテレビにはゲーム専門チャンネルまであった。
「現実世界での悩みやストレスがゲームに走らせていることも」
芦崎氏によると韓国では1999年、ゲーム産業を育成する国の機関がつくられた。国内市場の成長は著しかったが、同時に「影」の部分についても指摘した。それがゲーム依存症だ。
2018年1月4日付の朝日新聞朝刊では、芦崎氏の著書名でもある「ネトゲ廃人」について特集した。韓国では16年の全国調査で、小4と中1、高1の計146万人からネット・スマートフォン(スマホ)の「過依存使用者群」が約20万人見つかった。日本国内では、神奈川県の久里浜医療センターのネット依存外来は患者の7割が未成年者で、うちゲーム依存が9割だという。
国内外の複数の報道によると、世界保健機関(WHO)は今年、ネットゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる症状を、病気の世界的な統一基準「国際疾病分類」に加える方針だという。
久里浜医療センターのサイトでは、ネットゲームには「10代~20代の若い世代の多くが没頭」するとある。その背景には、ゲーム自体にはまりやすくやめにくい仕組みに加えて、「例えば仕事や学校でうまくいかなかったり、家族や友人とうまくいかなかったりなどといった、現実世界での悩みやストレスがゲームに走らせていることもあります」と説明している。
このサイトは、世界的に使われている2種類の「ネット依存スクリーニングテスト」を紹介している。まず「インターネット依存度テスト」は、20問の設問に対してそれぞれ「全くない」「まれにある」「ときどきある」「よくある」「いつもある」のうち1つ選ぶ。例えば「気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか」との問いに対して、「全くない」を1点とし、以後2点、3点、4点となって「いつもある」を5点で計算。70点以上だと「インターネットがあなたの生活に重大な問題をもたらしています。すぐに治療の必要があるでしょう」と判定される。
もう1つ「インターネット依存自己評価スケール」は、青少年用と成人用に分かれ、全15問の設問内容がそれぞれ若干異なる。回答は「非常にあてはまる」「あてはまる」「あてはまらない」「全くあてはまらない」の4つの選択肢から1つ選ぶが、設問によっては付与される点数が変わる。合計点によって依存リスクが示される。ネットゲームに特化したテストではないが、自分がどの程度依存度が高いかの目安になるだろう。
世界規模で市場が成長しているeスポーツは、日本にとっても新たなビジネスの可能性が広がる。ゲーム産業の育成が重要な半面、いかにゲーム中毒者を出さないようにするかが課題だ。