2017年、日本でも話題となった人工知能(AI)は、徐々に私たちの生活のなかに浸透してきた。
そのひとつ、車内の音声操作機能で年明け早々に動きがあった。主役は米アマゾン・ドット・コムだ。
車内では「代理人」的AIの方がありがたい?
米ラスベガスで現地時間18年1月9日~12日に行われた世界最大の家電見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。トヨタ自動車はこのイベントで、今年から「レクサス」など同社が米国で販売する一部車種にアマゾンのAI「アレクサ」を搭載することを明らかにした。音声操作で、道案内や車内の娯楽機能、ニュース、買い物リストを呼び出せるようになる。また自宅の「スマートホーム」機能と連動させて、例えば運転中に自宅の温度設定をアレクサに命じて、帰宅時に快適な温度にしておくことが可能になる。
CESは家電見本市だが、近年は自動車メーカーが存在感を見せている。1月10日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で、三菱総合研究所チーフエコノミストの武田洋子さんは、その理由に「車と家電の垣根が低くなっている」点を挙げた。車の製造コストに占める電子部品の割合は、ガソリン車が3割なのに対してハイブリッド車は5割、電気自動車は7割に達する。
トヨタに先駆けて米フォード・モーターも1年前、アレクサ搭載を発表した。車内で声によるナビゲーション操作などができるのは、トヨタと同じだ。独フォルクスワーゲンやBMWのほか、日産自動車も米国市場でアレクサ対応の車種を発表している。
自動車メーカー以外では、パナソニックがCESで、同社開発の車載システムにアレクサを採用、対話による各種操作が可能になるようにした。
AIに詳しい角川アスキー総合研究所の主席研究員、遠藤諭氏は昨年末、J-CASTニュースのインタビューで、アレクサについて「代理人」という表現で説明した。「アマゾンの場合は『入力欄を埋める』ことを音声でやりとりしたら、いままで同社のクラウド上で動いていたようなサービスを呼び出すだけと割り切っている」というのだ。こうしたウェブ画面やアプリに相当するものが「スキル」で、スキルを登録して使用し、増やすこともできる。
改めて遠藤氏に聞くと、「自分が車に乗っている、あるいは自社の車をユーザーに提供するとき、代理人的な単なるボイスインターフェースを載せたいのではないでしょうか」と、アレクサの機能面の特性に触れた。何でもかんでも答えようとするAIより、必要なときだけに的確な情報を提供してくれる存在が、車内ではありがたい存在なのかもしれない。
自宅と車内の連動性が保てるのは便利
アマゾンは、「あらゆるタッチポイントから消費を考えているので、ユーザーの行動と直結するカーテレマティクス(車両に通信機能を備えた車載器を搭載して提供するサービス)は非常に大きな意味を持つでしょう」と遠藤氏。移動データが手に入るのも同社にとって大きいとみる。一方ユーザーは、自宅で「エコー」などアレクサを搭載したAIスピーカーを使っていれば、居住空間と車内との連動性が保てる。
特に米国市場の場合、自宅に置くAIスピーカーでアマゾンが他社を先行している。1月17日付の日本経済新聞朝刊によると、シェアは7割を超え、「低価格の端末拡販でアマゾンの勢いは増す一方だ」。こうなると、「家で使い慣れたサービスを車内でも使いたい消費者は多い」というわけで、自動車メーカーもアレクサへの対応を急いでいるという。
アマゾンと競合するグーグルは、以前から「アンドロイドオート」という車載機器を提供しており、独フォルクスワーゲンや仏ルノー、米GM、ホンダといった大手メーカーの400以上のモデルに対応している。ただし、同社のAIシステム「グーグルアシスタント」への対応は、今年に入って発表したばかりだ。1月9日付の発表資料によると、米国を皮切りに順次対応を進めていくという。やや後手に回っている感があるが、巻き返せるだろうか。