北朝鮮が平昌(ピョンチャン)五輪に選手団の派遣を決めたことを受け、韓国メディアは同時に派遣される「芸術団」の話題でもちきりだ。2018年1月15日には南北軍事境界線上にある板門店で実務者協議が行われ、その席には、かつて国民的人気歌手として注目された玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏の姿もあった。
金正恩委員長の肝いりでスタートした牡丹峰(モランボン)楽団の団長を務め、かつては正恩氏との交際や「銃殺説」もささやかれた人物だ。17年9月には朝鮮労働党の党中央委員候補に選出されて党幹部の仲間入りを果たしており、五輪で北朝鮮が展開するプロパガンダに相当程度の影響力があるとみられる。
北朝鮮側の発表に楽団名の記載がない理由は...?
韓国統一省の発表によると、協議の結果として
「北側は三池淵(サムジヨン)管弦楽団140人余りで構成された芸術団を韓国側に派遣する」
「北側芸術団は、江陵とソウルで公演を行う」
など5項目で合意した。江陵はアイスホッケー、スピードスケート、フィギュアスケートなどの会場になっている。
三池淵は、故・金正日総書記が生まれたとされる白頭山周辺の地名。この地名を冠するということは、ある程度由緒ある劇団だとみることもできる。ただ、過去に北朝鮮メディアで「三池淵楽団」の存在は報じられたことはあるが、「三池淵管弦楽団」は未確認だ。今回の北朝鮮側の発表では「140人余りで構成された芸術団」という表現にとどまり、楽団名を明記しなかった。聯合ニュースは、この背景について
「既存の楽団ではなく韓国に派遣するため新たに構成された楽団で、北朝鮮住民には知られていないことから、具体的な名称に言及しなかった」(聯合ニュース)
といった見方があることを指摘している。五輪向けの「特別チーム編成」になる可能性がある、ということだ。
正恩氏の「元カノ」処刑説に震撼
玄氏は元々、正日氏が立ち上げた普天堡(ポチョンボ)電子楽団のメンバーで、金親子の覚えはめでたかったようだ。12年3月のコンサートでは、観客席に座っていた玄氏が司会者から促されてステージに上がり、正恩氏の前で歌を披露した。12年7月には、「普天堡」を発展・改組する形で、正恩氏の指示で牡丹峰(モランボン)楽団が立ち上がった。後に玄氏が楽団の団長に就任していたことも明らかになった。
韓国メディアによると、00年頃から数年間にわたって正恩氏と交際していたとの情報もある。朝鮮日報は13年8月、玄氏や、著名な「銀河水(ウナス)管弦楽団」メンバーがわいせつ動画を撮影するなどの容疑で逮捕され、公開処刑されたと報道。仮に事実であれば正恩氏は「元カノ」を処刑したとあって、衝撃が広がった。もっとも、14年5月には「牡丹峰楽団団長」の肩書で全国芸術家大会(全国芸能人大会)でスピーチする様子が朝鮮中央テレビで報じられ、銃殺説は「ガセ」だったことが明らかになっている。
初の国外公演はドタキャンに...
牡丹峰楽団は15年12月に北京で初めての国外公演を予定していたが、「ドタキャン」したという経緯もある。この理由ははっきりしないが、日韓のメディアでは「正恩氏が水爆保有を主張→中国側が反発して指導部の出席取りやめ→北朝鮮も反発して講演中止」との見方も出ていた。この時も劇団を率いていたのは玄氏だった。17年10月には労働党中央委員会総会で中央委員候補に選出され、さらに「出世」。実務者協議に臨んだ玄氏が、五輪の場でも北朝鮮流のプロパガンダを繰り広げる可能性が高そうだ。