経団連の榊原定征会長は2018年1月9日の記者会見で、後任の次期会長に日立製作所会長の中西宏明氏を起用すると発表した。中西氏は5月31日の経団連定時総会で次期会長に正式に選出される。日立から経団連会長が誕生するのは初めてとなる。財界で4年に一度の注目の人事は、事前の新聞報道通りに決着した。
次期会長となる中西氏は9日、記者団の取材に「私は正直に言って、新聞人事が先行したので、淡々と受けとめておりました」と、余裕の表情で語った。榊原会長から正式な要請があったのは2017年12月27日で、受諾は1月5日に電話で伝えたという。しかし、榊原会長が会見で「中西さんとはいろんな中でお会いしますから、阿吽の呼吸というか、以心伝心的な疎通があったかなと思っています。必ず受諾していただける自信をもっていました」と述べたように、内々の打診は昨夏以降にあったようだ。
毎日新聞がスクープ
次期経団連会長をめぐっては、例年通りマスコミ各社の報道合戦が繰り広げられた。その中で、「経団連会長に日立・中西氏」と真っ先にスクープしたのは、2017年11月16日付毎日新聞朝刊だった。毎日は「任期満了を迎える榊原定征会長の後任に、副会長の中西宏明・日立製作所会長が固まった」と報じた。「榊原会長は最終的に財界活動や海外経験が豊富な中西氏に絞り込んだ」「中西氏は会長就任を受け入れる見通しだ」という内容だった。しかし、ニュースソースは明らかにしなかった。
ライバル各紙は読売新聞、産経新聞、東京新聞が翌17日付朝刊で「経団連次期会長 中西氏軸に調整」などと追いかけた。共同通信、時事通信も追いかけた。朝日新聞もさらに1日遅れの18日付朝刊で「経団連の次期会長 日立・中西氏で調整」と追随した。「中西氏に固まった」と書いた毎日以外は「中西氏を軸に調整」などと、ややトーンダウンしていた。これは経団連首脳が「まだ毎日報道通りには確定していない」と否定し、「中西氏を軸に調整ならば書いてよい」と非公式ながら認めたためらしい。
全国紙の中では唯一、日経新聞が毎日新聞を後追いしなかった。このため、財界関係者の間では「経団連会長人事で何か起きているのでは?」とささやかれもした。しかし、日経新聞も12月29日付朝刊で「経団連会長に日立・中西氏」と報じ、ここに、全国紙はすべて中西氏の前打ちで並ぶところとなった。
早くから本命候補と目され
経団連会長人事など一般の読者には馴染みがないが、財界はもちろん、新聞社や通信社にとっては4年に1度のビッグイベント。各社経済部の間では日銀総裁人事と並ぶ報道合戦が繰り広げられる。かつては1月1日付の元旦紙面で、ある全国紙が経団連会長人事をスクープしたものの、大誤報となったケースもある。
経団連会長人事は現職の会長が副会長から指名するのが慣例だが、近年は本命の副会長に逃げられ、迷走するケースが多かった。本来ならは前年の秋に決着すべき会長人事が年明けにもつれ込むことが多く、誤報が生まれる素地となった。
その点、今回は現職副会長である中西氏が早くから次期会長の本命候補と目されており、報道各社にとっても撹乱要因は少なかったといえる。かつて毎日新聞は2005年10月、「次期経団連会長 御手洗氏が有力」とスクープし、奥田碩会長(当時)の後任として11月にキヤノンの御手洗冨士夫氏が内定したケースがある。この時も御手洗氏が本命候補と目され、早期に順当に決まった人事だった。現職会長が「これぞ」と思う本命候補がスムーズに受諾すれば、前年秋に実質的に決着する構図であるようだ。