中国は現在、イノベーションブームの渦中にある。特に情報技術や家電などの分野におけるイノベーションと研究開発の能力が高まっている。この結果、労働力人口の増え方が全体の人口増より多くなる「人口ボーナス」が、中国では「技術者ボーナス」にバージョンアップしている。
「技術者ボーナス」とはハイエンド製造業や科学技術業の発展に適応した新型の人口ボーナスを指す。製造業の雇用市場において、高等教育を受け、イノベーション能力を備えている人材は急速に増加し、低コスト労働力に依存していた中国の過去の競争モデルに取って代わりつつある。
1年に社会に出る760万人の大学・大学院生
『中国統計年鑑』(2017年版)によると、2016年、中国には704万人の大学卒業生(アメリカの大学卒業生の4倍)と56万人の大学院生が輩出された。2017年の大学および大学院の卒業生も、例年のように3%増とすれば、780万人以上が社会に出ているはずだ。
さらに、1978年からの改革開放政策で、2016年までに合わせて458万人が海外へ留学に行ったが、現在そのうちの265万人が帰国している。2016年に限って見てみると、留学した人の数は54万人だったが、帰国した留学生も43万人はいた。
中国での大学の教育も質が長足の進歩を遂げている。2015年に中国の24大学が英クアクアレリ・シモンズ(QS)世界大学ランキングトップ500に入り、学校の数も世界第4位にランクインした。
とくに、留学生の帰国が一つの潮流と、広発証券のレポートでは報告されている。2017年に人的資源・社会保障部、教育部、科学技術部、財政部など(日本の省に相当)が開いた「留学生帰国サービス業務部局間合同会議」のデータによると、中央政府は2016年までに海外ハイレベル人材を6000人以上招へいした。各地方政府が招へいしたハイレベル留学人材も5.39万人に達した。学業を終了し、帰国してキャリアアップの道を選んだ留学生の比率は2012年の72.4%から2016年には82.2%に増加した。
中国の技術者は日本の5倍
こうした高等教育を受けた人材の蓄積が、中国の「技術者ボーナス」の強固な土台を築いた。UBS中国証券研究責任者の侯延?氏は以下のように指摘している。
「中国の豊富で安価な理工学部の研究開発人材によって、中国の研究開発コストは外国より低水準を保ち続けると考えられている。言い換えれば、中国の技術者ボーナスが現在になって徐々に現れ始め、今後10年間持続するものと見られる」
さらに、国泰君安証券研究所グローバル・チーフエコノミストの花長春氏は、メディアのインタビューに次のように答えている。
「新旧経済の転換の過程で、技術者ボーナスが中国の新技術の主要な動力源になり、中国の製造業、特にハイエンド設備製造業の未来は明るい」
同氏は、一部の中国の製造業企業が過去10年間で蓄積した技術は、今後、輸入製品に取って代わることができると考えており、次のように述べている。
「我々の調査研究によると、例えば浙江省や(江蘇省)常州市のいくつかの製造業企業が持つ技術と設備は非常に顕著な進歩を遂げており、海外企業と完全に競争することができ、その競争力も高い。彼らが抱えている技術者のコストパフォーマンスは高く、人数は膨大だ。中国の技術者の総数は日本の約5倍であり、我々の人的資源は優位性を持っていると言えよう」
しかし、こうした技術者集団は、現在の中国ではグーグルや日本のヤフーなども使えず、日本の全国紙、経済紙さえインターネットで見ることはできない。英字情報へのアクセスはもっと不自由であり、海外情報とは基本的に遮断されている。もし、彼らが本当に海外の情報を自由にアクセスできるようになれば、中国はどう変化するか想像もつかず、技術者ボーナスによる発展の可能性はさらに大きい。そう思うのは考えすぎだろうか。
(在北京ジャーナリスト 陳言)