2015年末の慰安婦をめぐる日韓合意は、韓国は日本側に再交渉を求めないものの、日本が元慰安婦の名誉回復に向けた「努力を続けることを期待する」ことを表明した。
文在寅(ムン・ジェイン)政権としては、国内世論と日韓関係のバランスを取った苦肉の策ともいえそうだ。韓国政府は日本政府に対して直接の追加対応を要求しているわけではない。ただ、これまで合意の再交渉や、検証プロセスに批判的だった韓国メディアからは、日本側の責任を指摘したり、新たな対応を主張したりする声が噴出している。
河野外相「我が国として全く受け入れることはできない」
康京和(カン・ギョンファ)外相は2018年1月9日午後に記者会見し、再交渉は要求しないとする一方で、
「被害者の名誉・尊厳回復と心の傷を癒やすための努力を続けることを期待する」
と述べた。河野太郎外相は直後に、
「日本側に対してさらなる措置を求めるということは我が国として全く受け入れることはできない」
とコメントし、強く反発した。
翌1月10日付の韓国紙の社説では、河野氏の発言への反発が相次いだ。合意見直しを主張していた京郷新聞は、河野氏の「残念」で「相手の立場を踏まえない反応を疑問に思う」と非難。再交渉を要求しなかったのは韓国側には「政治的負担」で、日本側も同様の負担をすべきだと言わんばかりの主張を展開した。
「日本政府が韓日関係の復元を希望するならば、韓国政府が政治的負担を負って『合意を維持』の方針を明らかにしたことを大局的に受け止めるべきだ」
合意の前提「日本が約束した措置」とは...?
東亜日報も河野氏の発言に反発。合意には、「日本が約束した措置が着実に実施されるということ」という前提がついていたとして、
「日本は韓国で12・28合意が敬遠された責任がどこにあるかを振り返らなければならない」
と主張した。その背景には
「2015年の合意直後に安倍晋三首相が朴槿恵大統領に電話をかけ、『謝罪と反省を表明している』と言ったその瞬間以外は日本の真実をごまかそうとする姿勢に変化がなかった」
などとして、「日本が約束した措置」が実行されなかったとの主張をにじませた。
ただ、合意履行の前提になっている文言は、正確には
「日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」
というもの。これは元慰安婦の支援を目的とした財団を設立するために日本政府が資金を拠出することを指しており、すでに日本側は対応を完了している。東亜日報が言う「日本が約束した措置」はすでに実行されているとみることもできる。
ハンギョレは「国際基準に合う解決」主張
ハンギョレは、今回の外相の発表は「当然の決定」で、合意の「最終的かつ不可逆的に」という表現は「実に傲慢だった」と主張。合意後に死去する元慰安婦も多いことを挙げながら、日本側の対応を要求した。
「日本という国が戦時に女性の人権を蹂躪した事実を認め、心を込めた謝罪と被害者に対する賠償、それらをもっての被害者の許しが行われないない限り、誰も『最終的解決』を口にする権利はない」
「日本が国際基準に合うように慰安婦問題を解決できる時間も、もうあまり残っていない。歴史は慰安婦の強制動員だけでなく、日本が彼女たちにどのような対応をしたかも明確に記録するはずだ」
日本国内からも、日本側の対応を求める声がわずかながら出ている。朝日新聞は1月10日の社説で、韓国側の対応を
「これでは合意が意味を失ってしまう恐れが強い」
と批判する一方で、元慰安婦への支援事業の継続のための「日韓両政府の協力の拡大」の重要性を指摘。
「その意味では日本側も『1ミリたりとも合意を動かす考えはない』(菅官房長官)と硬直姿勢をとるのは建設的ではない」
などとして、合意の範囲内での
「前向きな選択肢を考えるのは当然だ」
とした。
星浩キャスター「大人の対応が必要だと思いますね」
1月9日放送の「NEWS23」(TBS)では、星浩キャスターが、環太平洋パートナーシップ(TPP)を引き合いに、選挙や政権交代で「国際合意が見直されることがよくある」と主張。韓国側の立場を踏まえた「大人の対応」を求めた。
「日本側は文在寅さんの置かれている立場とか韓国の事情だとかに耳を傾けて、どういう合意がありうるのかこれからどういう話し合いがありうるのかというのを一緒に考えていくという大人の対応が必要だと思いますね」