出光経営陣は「鳴くまで待とう」作戦 創業家との「合併バトル」決着を急がない理由

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   石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油は、出光創業家に反対されながらも合併に向けた歩みを進めている。2018年春をめどに約300人の両社の社員が同じ事務所で業務を行うなど、合併に先立つ「事実上の経営統合」をより具体化させ、その効果をあげる方針だ。ただ、創業家の同意なしの合併実現を急がない考えで、長期戦で創業家の翻意に期待する。

   エコカー普及などによる石油需要低迷を背景に石油元売り再編は経済産業省の音頭で進められ、両社の合併はその最終章と言える。創業家がその合併に公の場で初めて反対の意思表明をしたのは2016年6月の出光の株主総会だ。合併計画はその前年に公表されていたが、「社風が合わない」といった理由を挙げて創業家の代理人弁護士(当時)である浜田卓二郎・元衆院議員が株主総会で反対を表明。創業家当主である出光昭介元社長と出光の月岡隆現社長は2015年末から秘密裏に話し合ってきていたが、両者の決裂がはっきりした瞬間でもあった。

  • 合併の行方は(画像はイメージ)
    合併の行方は(画像はイメージ)
  • 合併の行方は(画像はイメージ)

「協働事業の進捗」を発表

   当時、創業家の出光株の保有比率は3分の1を上回っており、法令上、合併のような重大事項を株主総会で否決することができた。その後、創業家の代理人弁護士の交代、出光が1200億円の公募増資を実施し創業家の保有比率が約26%に低下――といった経過をたどったが、双方の協議が膠着状態にあることには変わりなく、今日にいたる。

   そうした中で創業家の直近の動きとして、出光株の追加取得があった。創業家は2017年12月18日、出光株を1.9%分買い増したと発表し、合併について「反対の意思にいささかの揺るぎもない」と表明。保有比率は28%超にじわり上昇し、両社経営陣に改めて揺さぶりをかけた。

   一方、両社は対抗するかのように12月22日、「協働事業の進捗について」と題するニュースリリースを発表。5月から本格的に始めた協業の成果と今後の予定を明らかにした。合併効果は大きいと投資家や創業家に訴える戦略でもある。それによると、具体的なシナジー(相乗効果)が実現されている主な領域として、原油タンカーの共同配船、資材の共同調達、燃料油出荷基地の相互利用のほか、全国に計7か所ある精油所の最適生産システムの運用などが始まっており、これらによって2017年度分の協業効果は80億円を達成する見通しとしている。

   合併効果としてこれまでに「5年で500億円」をアピールし、その半分の250億円を3年で達成すると表明していた。この点について12月22日の発表は、「3年で250億円」が前倒しで実現できる見込みで「3年で300億円」が視野に入ってきたと表明。そのうえで、協業効果拡大に向けて「追加アクション」を実施するとしている。

創業家は株を買い増し

   アクションの目玉が事務所統合だ。2018年春をめどに原油・需給、調達、環境安全の各部門の事務所統合を推進。同じオフィスで両社員が顔を突き合わせて働くことで日常的にシナジーを考える環境も整える。事務所統合によって冒頭に記した通り、約300人が同一事務所で業務を行う。相互出向に取り組むことで組織融和も図る。人事部門はすでに2017年11月に相互出向を実施。今後は各部門に相互出向を拡大する。

   創業家は出光株を買い増したとは言え、その保有比率は合併否決に必要な3分の1には届かない。その他の株主の大方は合併に賛成とみられるが、両社は株主総会を開いて強引に合併を決定せず、創業家の賛成転換を待つ長期戦に臨む。

   創業家は水面下で「創業家から1人取締役を選べ」とも主張している。具体的には出光昭介氏の次男で社員の正道氏を飛び級で昇格させよということだ。大株主でもあり、それ自体おかしな主張とまでは言えないが、出光という有力上場企業が舞台なだけに透明性を欠いた「取引」は後に禍根を残しかねない。

   両社経営陣が長期戦に挑むのは、創業家の反対理由などが投資家に理解されていないとみて、世論を見方につけるための戦略でもある。両社の「鳴くまで待とう」作戦に軍配があがるのか、その結果を見るにはもう少し時間がかかりそうだ。

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