生活保護費の食費や光熱費などに充当する生活扶助(生活費に相当)の支給額が、最大5%、平均1.8%削られることになった。5年に1度見直しているもので、削減は前回の平均6.5%に続き2回連続。格差拡大、子どもの貧困などが指摘される中でのことだけに、生存権を脅かすとの懸念、批判の声も出ている。
生活保護の受給世帯数は毎年、過去最多を更新している。2016年度は月平均で約163万7000世帯、受給者数は約214万人になり、65歳以上の高齢者世帯は初めて半数を超え、うち9割は独り暮らし。生活保護のための費用(事業費ベース)は約3.8兆円に上る。このまま拡大していけば、制度の持続可能性も危ういとも指摘される。そうした現実を背景に、今回の支給額カットが決まった。
一般世帯の年収下位10%層の生活費と均衡する扶助額を算出
といっても、生活保護基準の改定は、1984年に導入された「水準均衡方式」というルールにのっとって行われる。地域や世帯類型別に、一般世帯と比べ、高すぎる場合はこれに合わせるもので、具体的には、生活保護を受けていない一般世帯の年収下位10%層の生活費と均衡する扶助額を算出する。より細かく説明すると、厚生労働省が、5年ごとの全国消費実態調査を使って一般低所得世帯と比較し、その検証結果をもとに、社会保障審議会生活保護基準部会で議論し、厚労相が決定する。
今回の検証結果は、現行の扶助費が一般低所得世帯の生活費を最大13.7%上回るという内容。受給額が最も高い大都市部などの地域で生活扶助費と一般低所得世帯の生活費(2通りの計算のうち少ない額)をいくつか比較すると、「40代夫婦と子ども2人」が18万5270円と15万9960円(差は2万5310円、13.7%)▽「75歳単身」は7万4630円と6万8840円(同5790円、7.8%)▽「共に65歳夫婦」は11万9200円と10万6020円(同1万3180円、11.1%)――といったものだった。
ちなみに今回、検証結果の詳細なデータが審議会に示されたのは、2018年度予算案決定が迫る17年12月上旬で、批判の声が広がる時間を与えないためとも勘繰られるような「短期集中」の論議だった。委員からも「十分な検討時間がない」と不満が出たが、14日に厚労省の方針を追認する報告書をまとめた。
政府の狙いはさておき、扶助費カットには批判の声が沸き起こったこともあり、その後の政府・与党の検討を経て、ひとり親家庭に支給される「母子加算」などを加えた総額で削減幅を最大5%に圧縮したうえで、「激変緩和」として2018~20年の3年に分け、段階的に毎年10月から削減することとし、12月22日に決まった18年度予算案に盛り込まれた。
実際に「最低限の生活」にいくら必要なのか
なお、母子加算は月平均で2万1000円から1万7000円に引き下げ、総額で約20億円(平均19%)削減。児童養育加算は、対象の上限年齢を15歳から18歳まで引き上げる一方で、3歳未満については1万5000円から1万円に減額する。これらによる扶助費のカットの総額は最終的に年間160億円(1.8%)になる。
これらを総合して受給者への影響を見ると、生活扶助額は、受給世帯の67%で減、8%は変わらず、26%は増える見込み。子どものいる世帯では57%が増え、43%が減る。世帯類型ごとにみると、40代夫婦と子ども2人世帯▽子ども2人の40代母子世帯▽50代単身世帯▽65歳の高齢単身世帯▽75歳の高齢単身世帯などで最大5%減となる。一方、町村部などの子ども1人の母子世帯では13.4%増える――などだ。
生活保護は、憲法25条が保証する「生存権」、つまり、全国民が健康で文化的な最低限の生活を送れるよう保障する制度だ。とはいえ、一般低所得世帯の消費支出より生活保護基準が相対的に高いから下げるというのは、心情的には当然にも思える。さらに、不正受給が絶えない現実が反発を招く面もあるほか、自助努力が足りないとの偏見も根強い。また、実際に「最低限の生活」にいくら必要かという算出が難しいのも確かだ。
現行は、受給者の生活水準が経済の成長に追いつくようにする目的だったが、低成長、デフレ時代、とりわけ、格差や貧困などが広がる中では受給額を低くする方向に働く。
今回の改定についての政府の公式の説明は、「消費の実態と現行の扶助費の水準にばらつきがあって是正をした」(加藤勝信厚労相)というもので、引き下げありきではないと強調する。前回(5年前)は「デフレ(物価下落)を反映した引き下げ」(加藤厚労相)で、今回はこれとは違うという説明だ。だが、安倍晋三政権はデフレから脱却しつつあると自賛するが、「一般の低所得世帯の消費支出に合わせて生活保護も下げるという今回の改定は、安倍政権の期間とそっくり重なるこの5年で、一般世帯の生活が悪化したことを意味し、アベノミクスの看板に偽りありということになる」(全国紙社会部デスク)。
受給者そのものを減らす工夫
そもそも、生活保護を受けられる要件に該当しながら、実際に受給している人は2~3割程度と推定する専門家が多く、受給しない貧困層を含む「一般低所得世帯」の消費支出と比較する保護費の決定方式は、実態以上に保護費を下げる方向に作用すると指摘される。困窮者支援のNPOなどからは「一般家庭の生活水準が下がったから生活保護も下げるというのでは国民生活全体の水準を引き下げていくことになる」との批判も出る。
実は、5年前の改定時、社保審部会の報告書は現行の方式の限界を指摘。今回の報告書も、「一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準の水準を捉えていると、比較する消費水準が低下すると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることから、これ以上下回ってはならないという水準の設定についても考える必要がある」と明記している。
厚労省も問題意識がないわけではなく、2012年、「最低生活に必要なもの」を積み上げて受給額を決める方式について専門家に試算を委託したが、夫婦と小学生の3人家族の消費額は家賃を含め月50万円近い高額になったといい、「適切な水準」の設定の難しさを逆に印象付ける結果だった。
それでも、このまま漫然と放置すれば、高齢化、格差などで生活保護受給者が増え続け、給付をカットするばかりでは、「最低限の生活」が守れないだけでなく、制度自体が崩れかねない。「深刻な病気などで就労困難な人を除き、教育や職業訓練と組み合わせて受給者そのものを減らす工夫が要る」(日経新聞12月21日社説)のはもちろんだが、そうしたことを含め、「(生活保護制度を)持続させるための方策を真正面から議論する段階にある」(朝日新聞16日社説)のは間違いない。