訴訟合戦を繰り広げてきた経営再建中の東芝と、協業先の米ウエスタン・デジタル(WD)が2017年12月上旬、和解に至った。WDが米国際仲裁裁判所に求めていた東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却差し止め請求が継続する限り、東芝メモリの売却手続きが頓挫しかねない。東芝にとってWDとの係争が最大の懸念だっただけに、いったん追い詰められた東芝にとっての一発逆転だった。
潮目が変わった最大の要因は、12月上旬に実施した約6000億円規模の第三者割当増資だ。東芝は11月下旬、突如として増資を発表。引受先には、世界中の約60ファンドがずらりと並んだ。増資が成功すれば、18年3月末までに売却を完了できなかったとしても、東芝は債務超過から抜け出し、2期連続債務超過による上場廃止を回避できる。東芝が売却を急ぐ必要がなくなったことが、WDの焦りを呼んだ。
第三者割当増資
今回の増資で、国内外のファンドを束ねたのは米ゴールドマン・サックス(GS)だった。関係者によると、GSは9月下旬に半導体事業売却先を「日米韓連合」に決定後、WDとの係争リスクが続くとみて、水面下で東芝の第三者割当増資の検討を始めた。11月に東芝側に正式に第三者割当増資を持ちかけたといい、東芝はその提案に飛びついた。
同時期に、国内の証券大手も水面下で東芝の増資を検討していたものの、2018年3月までの売却完了を確実にするスキームを作ることができず、GSに先行を許した。電光石火の秘策に、国内大手証券関係者も「短時間でこれだけの投資家を集めるとは、さすがGSだ」と舌を巻いた。
工場の新製造棟めぐり「兵糧攻め」
さらに、東芝の対抗策もWDを追い詰めた。東芝が四日市工場などに建設する新製造棟について、従来のWDとの共同投資から単独投資に切り替えるとの方針をWDに通告。四日市工場はWDにとってメモリー製品の唯一の調達先であり、製品調達を絶たれるとビジネスが立ちゆかなくなる。この「兵糧攻め」に、強気のWDも譲歩を余儀なくされた。こうして、「包囲網」を敷かれたWDは、東芝の求めに応じて和解に応じるしかなかった。
ただ、東芝は今回の「奇策」により、新たなリスクを抱えることになった。増資に応じたファンドは、企業に厳しい要求を突きつける「モノ言う投資家」も数多く含まれる。その中には、「債務超過を回避できたのだから、稼ぎ頭の東芝メモリはもう売却する必要はない」と主張するファンドもあるという。WDとの対立を解消した代わりに、東芝は新たに株主となった多くのファンドと渡り合わなければならない。市場関係者は、それを東芝の経営リスクとして意識し始めている。