イスラエル建国に反対する正統派ユダヤ教徒
しかし、正統派ユダヤ教徒のなかには、イスラエル建国に反対する人たちもいる。反シオニスト・グループ「ネトゥレイ・カルタ」は、今回のトランプ氏によるエルサレム首都認定に対して、ニューヨークの国連ビル前で抗議デモを行い、「No more killing. No more hate.」と叫んだ。
「ネトゥレイ・カルタ」のメンバーは5000人以下で、主にエルサレムに住む。同じような思想の人たちが、ロンドンやニューヨークで活動している。彼らによれば、ユダヤ人は神の令により離散し、主権国家を作ることを禁じられている。彼らはイスラエル国旗を燃やし、ホロコーストを世俗的なユダヤ人に対する神の罰であると主張するなど、過激な一派とみなされることも多い。
イスラエルは、今回のエルサレムの首都認定を「勇気ある歴史的決断」と評価し、エルサレム旧市街の嘆きの壁近くに建設が検討されている地下鉄駅を、トランプ大統領にちなんで命名すると発表した。
トランプ氏が大統領に就任した直後、デビーは私にこう言った。
「多くの人にとって『悪』とみなされるトランプから、もしかしたら『善』が生まれるのかもしれない。(パレスチナ分割提案はそれ以前からあったものの、)ホロコーストがなければ、イスラエル建国は実現しなかったかもしれないようにね」
デビーの言葉を借りれば、それは神のみぞ知る。ユダヤ人だけでなく、パレスチナ人にとっても「善」であることを、祈るばかりである。 (この項終わり。随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。