対話につなげるための圧力、というニュアンスが明確に
――安倍政権は「国際社会が連携して北朝鮮に圧力をかけ続ける」ことが大事だとしています。世界では最高レベルの対北制裁も継続しています。この政策は継続すべきでしょうか。
武貞 安倍首相の主張は変わってきましたね。7~8月は「今は対話をする時期じゃない」といった発言が目立ちましたが、最近は
「北朝鮮の方から対話を求めてくるまで国際社会が連携して圧力をかけ続ける」(12月19日)
といったように、対話につなげるための圧力、というニュアンスがはっきりしている。中韓が軍事的オプションを排除して外交的解決しかないことで一致したこともあり、安倍政権が国際社会で孤立することを警戒している可能性もあります。
輸出入を禁止し人的交流を停止している日本が一番厳しい制裁を課している国です。圧力は十二分ですが、対話はゼロの状態です。ミサイルが日本上空を飛んでも、彼らに直接抗議するパイプがない。「北京の大使館ルートで抗議」と言っても電話で伝えているにすぎません。
17年9月に訪朝した際、金正恩氏の側近で、外交部門の責任者として知られる朝鮮労働党国際部長であり、朝日(ちょうにち)友好親善協会顧問のリ・スヨン氏に会う機会があり、ドイツの例を念頭に国会議員同士の交流やスポーツ交流を提案しました。「歓迎する」という回答でした。
「ミサイルが日本上空を通過することは日本にとって深刻で、日本の防衛意識が変わっていくきっかけになっている」
と伝えたりしました。拉致問題については、先方は
「政治的に利用しすぎており、安倍政権との話し合いを打ち切った」
と主張されたので、
「日本の世論が安倍政権を含む歴代政権を動かしたのであって、世論が感情的になってたのが拉致問題の本質です」
などと伝えました。こういった意見交換の場がないのが問題です。
――では、安倍政権はどうすべきだと考えますか。
武貞 大きく3つあります。まず、直接対話です。連絡事務所を平壌に置くべきです。一民間人が安保問題、拉致問題、核を含む軍事問題で討論できる状態ですから、政府レベルで議論することに北朝鮮側は否定的ではないはずです。日本の懸念は直接伝える場が必要です。
2つ目が、拉致に限らず、複数の分野を平行して議論することです。具体的には、拉致を含む人権問題、国交正常化問題、国交正常化のあとの経済支援問題、日本の防衛上の懸念を伝えるための安保対話の4つです。先方の反応も否定的ではありませんでした。
3つ目が、ハードルを下げることです。拉致問題について言えば、政府が認定した拉致被害者17人以外に、「特定失踪者」が約700人います。「全員の消息を明示した報告書を一発回答で」と要求するのではなく、1人でも消息が判明すれば一歩前進と受け止めるべきです。そうしないと事態は前進しませんし、その点は安倍政権も分かっているでしょう。
武貞秀士さん プロフィール
たけさだ・ひでし 1949年兵庫県生まれ。77年慶應義塾大学大学院博士課程修了。防衛庁(当時)のシンクタンクである防衛研修所(のちに防衛研究所と改称)に入り、2011年に統括研究官として退職するまで36年間勤務。その間、スタンフォード大学、ジョージワシントン大学に客員研究員として滞在。11年より2年間、延世大学国際学部で日本人初の専任教授に着任。現在、拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授。