地方銀行の再編を巡る公正取引委員会と金融庁の見解の相違が、一段と鮮明になっている。公取委の山田昭典事務総長が、利用者の利便性などの観点から、地銀再編を厳格に審査していく考えを強調するという異例の行動に出たのだ。超低金利や人口減少で収益力が低下している地銀の再編を後押しする金融庁との溝が埋まる気配はなく、今後の地銀の経営戦略にも影響しそうだ。
問題の記者会見は2017年12月6日。その中で山田事務総長は「企業結合審査の考え方」と題した資料を配布。地銀の経営統合を認めるかどうかの判断基準について、顧客が十分な選択肢を確保できるかがポイントだと説明した。
異例の「判断基準」説明
公取委は、記者会見で経営統合の審査について質問が出ても、「ノーコメント」を貫くのが通例。今回のように判断基準を具体的に説明するのは極めて異例のことだ。山田事務総長は「この問題について関心が集まっているので、考え方を示したほうがいいと判断した」と述べた。
山田事務総長が言う「この問題」とは、長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)と、同県最大の十八銀行の統合に公取委が「待った」をかけ、計画が暗礁に乗り上げている問題だ。ふくおかFGと十八銀は2016年6月に審査を申請したが、同県内の貸し出しシェアが約7割に達することを問題視した公取委から「OK」がもらえず、統合の無期延期に追い込まれた。
もちろん、公取が地銀の統合を一切まかりならぬと言っているわけではない。新潟県の第四銀行と北越銀行については、統合後の県内シェアが約5割となることから注目されていたが、公取委は17年12月15日、「県内外に競合する金融機関があり、競争が維持される」として統合を認めた。もちろん、このケースでも、審査に時間を要し、当初、18年4月に予定していた両行の統合時期は、同年10月への延期を余儀なくされたが、長崎との違いは鮮明だ。
再編は重要な生き残り策だが...
地銀の経営環境が厳しさを増す中、再編は重要な生き残り策だ。それだけに、審査の高いハードルを見せつけられた金融界からは「公取委のせいで再編が進まない」といった不満が漏れている。
公取委が異例の見解を示したのは、こうした批判に反論する狙いもあったとみられる。山田事務総長は記者会見で、審査の判断基準について米国などでも同様の審査をしているとして、「国際的にみて標準」と強調し、理解を求めた。さらに、「地銀の競争手段は多様だ」と述べ、経営統合以外にも収益力強化の方法があると指摘した。
長崎県では、離島が多いこともあって地域によっては金融機関が少ないといった事情があり、中小企業の間で「ふくおかFGと十八銀の統合で寡占状態になれば、貸し出し金利が上がるのではないか」との懸念が根強いのは事実だ。公取委は「顧客の利便性」を盾に、現状のままでの統合は認めない姿勢を鮮明にしている。
ただ、銀行業界では「貸し出し金利が上がれば、他県から競合行が参入する。競争がなくなることはない」として、公取委に柔軟な対応を求める声が強い。金融庁も11月に公表した「金融行政方針」で「経営統合も一つの選択肢」としたうえで、「競争のあり方も含め検討する必要がある」と公取委を『けん制』していた。
公取委と金融庁が一歩も引かない中、地銀の再編相手選びはますます難しくなりそうだ。