加計問題の不毛な議論の遠因、朝日・NHKスクープ合戦の不幸な生い立ち

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   今年もっとも政界を賑わしたのは、安倍晋三首相が「岩盤規制に風穴を」と鳴り物入りで進めてきた国家戦略特区諮問会議が、首相の知人が理事長を務める加計学園による獣医学部新設を認めた問題だろう。その過程で「総理の意向」「これは官邸の最高レベルが言っていること」などと記録した文書が文部科学省に保存されていたことを報じたのが朝日新聞だ。内閣支持率が急落する大きな要因となるなど政権に打撃を与えたという点では、意味のあるスクープだ。

   ところが安倍政権は、火の手が上がったこの問題に幕引きを図るかのように通常国会を閉会し、野党の要求によって開催された閉会中審査でも、内閣府の当事者たちは一様に「言っていない」「記憶にない」などと否定し、決定打のないまま不毛な議論が繰り広げられ、真相は解明されずに越年となった。

  • 朝日新聞社
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背景の解説や経緯のまとめ記事がない

   真相解明が閉ざされた原因のひとつは、朝日のスクープの不幸な生い立ちにあると私は思う。もちろん、朝日のスクープがねつ造だとか、情報操作だと言うつもりはない。首相の知人による獣医学部新設を認める過程で公平性は担保されていたのかという疑惑を証拠で示したという点では価値あるスクープだ。

   だが、この報道の成立過程を追っていくと、メディア間の競争のなかで詰めの取材を十二分に経ないで掲載せざるを得なかったと思われる事情が、結果的に不毛な議論を招いてしまった可能性がある。

   朝日が「新学部『総理の意向』」 加計学園問題 文科省に記録文書 内閣府、早期対応求める」とする1面トップの特ダネを報じたのは2017年5月17日の朝刊だった。

   だが、私は奇異に感じた。

   この記事が掲載されたのは、締め切りが最も遅くて都内を中心とした地域に配られる14版だけなのだ。大きなスクープを打つ場合、途中で情報が漏れるのを防ぐために14版だけ載せるケースが全くないわけではないが、この記事で違和感を抱いたのは、そのことではない。

   内容があまりに薄いのだ。新聞社が満を持して特ダネを放つ場合、その記事の持つ意味や背景を解説して、その価値を読者にわかりやすく伝える工夫をするのがふつうだ。これまでの経緯をまとめた記事も必要だろう。だが、それらがすっぽりと抜け落ちている。

   なにより、文書に登場してくる当事者や、「総理の意向」などを文科省側に伝えた内閣府関係者のカウンターコメントが、1行も載っていない。当事者たちに内容を当てる時間さえなくあわてて作った突貫工事にも見える。

   後で知ったことだが、実はその前日の23時、NHKがニュースで、官邸の関与を示す文書を報じている。何を伝えたいのか、よくわからないニュースだ。

   「文部科学省の審議会 設置予定の獣医学部"課題ある"」として、国家戦略特区で認められた加計学園の獣医学部の設置について審査している文科省の審議会が、定員や教員の体制に課題があるとの報告書をまとめた、という流れの中で、唐突に文科省の文書が画面に現れ、アナウンサーがこう読み上げた。

「(獣医学部設置の可否についての)選考の途中だった昨年9月下旬、内閣府の担当者が文科省に対し、今治市に設置することを前提にスケジュールを作るよう求めたやり取りが文書で残されています」

   画面には、「藤原内閣府審議官との打ち合わせ概要(獣医学部新設)」と題された文書が映し出され、「最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい(中略)これは官邸の最高レベルが言っていること」と記されているはずなのだが、個人名と「官邸の最高レベルが言っていること」の部分が塗り潰されている。

   文科省の審議会のニュースに、国家戦略特区の選考過程の問題を加えるなど、通常ではありえない構成になっている。

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