AIは仕事を奪うのか
――自動運転はどう進化するとお考えですか。
遠藤 今のところ、将来は運転手が必要なくなるという議論が主ですが、その先には「車で外出しても、自動運転で自宅の車庫に戻ってくれれば駐車場が必要なくなる」といったような、社会システムの変化までつながれば面白い。現在の「ぶつからないような仕組み」の研究は、まだ「序の口」だと思います。
米国では、大都市の公道で(実証実験を)大胆にやっていますよね。つまり技術的にはかなり進んできていると分かります。これが日本でどこまで行われるようになるか。2020年の東京五輪を意識して開発を推進する可能性はあると思います。
――AIを活用した新技術の開発は、ほかにどんなものを期待しますか。
遠藤 例えばカモメは非常に効率よく風に乗って飛んでいます。またカンガルーが走っているのは実は弾んでいるだけで、複雑な動きを要する歩きよりもエネルギー消費量が少ない。AIがディープラーニングでこうした「運動系」を学習して獲得していけば、将来は新しい形の乗り物ができるかもしれません。
私は、日本のコンピューターを作った人たちにたくさんインタビューしてきたのですが、それで実感しているのは、銀行オンラインなどの社会システムはもちろんですが、高層ビルにしろ航空機にしろ、橋梁にしろコンピューターの計算能力なしには作れなかった。コンピューターが、私たちの生活や街の風景を変えてきたのです。AIの力で、同じように目に見える変化が起きたら楽しいですよね。
AI自体も進化するでしょうが、私としては人間のパートナーであってほしい。賢くなっても出しゃばらず、あくまでアドバイザーにとどまる。一方で人間に求められるスキルはAIとの関係性。どう「合意」し、伝えるかが大切になると思います。
――その点、「AI白書」の中でヤフーCSO(最高戦略責任者)の安宅和人氏が「これから起きる競争の本質は、よく言われるようなAI vs 人間のような戦いではなく、データやAIの力を使い倒す人と、そうでない人の戦いになる」と発言されています。
遠藤 私もそう思います。「AIが人間の仕事を奪う」という議論の中で、プログラマーが仕事を失うのではないかとよく耳にしますが、そんなことはないでしょう。プログラミングというのは、コンピューターを動かすため手取り足取り「指示する」という仕事でした。しかし、コンピューターがAIに進化したとしてもやってほしいことを正確に伝える必要があります。そうした事柄をAIとの間でとり交わすための契約書のような合意のための手段としてプログラミングは必要とされ続けるでしょう。それ以前に、世の中のものをAIに応用するための仕事が、子どもや若い人たちにはこれからドッサリありますよ。
AIに触れる第一歩としては、AIスピーカーがよい入口になるかもしれません。今の若い世代は幼いころからパソコンやネットに親しんでいたでしょうから、意外に抵抗なく使うのではないでしょうか。とにかくひとりのユーザーとして使ってみることをお勧めします。それがひいては、AIの技術の進歩にもつながると思います。
●遠藤諭氏プロフィル
えんどう・さとし/角川アスキー総合研究所取締役主席研究員。ネットデジタル全般に関する調査・コンサルティングを企業に提供する一方、ディープラーニング、VR/AR、量子コンピューターなど最新技術に関して発信、講座の開催などを行っている。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)ほか。