日韓の慰安婦合意をめぐる韓国外相の作業部会(タスクフォース、TF)の検証結果を受け、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年12月28日、「この合意で慰安婦問題は解決できない」などとする談話を出した。
これに先立って韓国の朝刊各紙が出した社説は、合意に至ったプロセスのずさんさを批判する一方で、必ずしも検証を歓迎するものばかりではない。中でも問題視されているのは、合意からわずか2年後に、非公開だった外交上のやり取りを公表してしまった点だ。「今後の外交に重荷になる」「どの国が韓国政府を信用して秘密の取引をすることができるのか」といった指摘も出ている。
朝鮮日報「再交渉要求すれば韓日関係は破綻」
TFの検証で明らかになった非公開の合意はおおまかに、(1)韓国政府が挺対協(挺身隊問題対策協議会)などの合意に反対する支援団体を説得する努力をする(2)日韓以外の第三国に慰安婦の追悼碑を設置する動きがあっても韓国政府は支援しない(3)「性奴隷」の用語を使わない、の3つ。元慰安婦の女性に十分説明がなかったという指摘もあったため、文大統領は
「手続き的にも内容的にも重大な欠陥があったことが確認された」
などとする談話を出し、合意にきわめて否定的な立場を鮮明にした。
韓国メディアの論調も、TFの報告書が指摘しているように、拙速に合意に突き進んだ点に批判的だという点ではおおむね共通している。ただ、それ以外では議論が割れている。
朝鮮日報は、合意の中で日本が謝罪したり慰安婦のために資金を拠出したりしたのは初めてだとして、
「韓日両国が一歩ずつ譲歩する合意で両国関係を正常化する方向に変わったのは紛れもない事実」
と合意を評価。再交渉にも否定的だ。
「慰安婦は重大な問題だ。しかし、もし2年前の合意を破棄して再交渉を要求する場合、韓日関係は破綻だ。北が核武装完成を宣言した状況で、いつまでも過去に縛られていることはできないことだ」
中央日報「どの国が韓国政府を信じて秘密の取引をすることができるだろうか」
中央日報も
「北朝鮮の核の脅威を日本と一緒に解決しなければならない我々の立場では、安倍政権との協力が必要だ。したがって、韓国政府としては、元慰安婦の女性の心をなだめながら、今回の発表が両国関係に及ぼす悪影響を最小限にするのが得策だ」
と説き、再交渉で日韓関係をさらに悪化させるべきではないとの立場だ。とりわけ同紙が問題視しているのが、非公開だった外交上のやり取りが公開されたことで、今後の外交に「重荷」になると非難した。
「大きな問題は、経緯の調査という名目で、外交上超えてはならない一線が守られなかったという事実だ。 30年間、秘密にすべき外交文書が2年で公開された。今後、文在寅政権はもちろん、今後のすべての政権の外交に大きな重荷になるのは明らかだ。日本はもちろん、どの国が韓国政府を信じて秘密の取引をすることができるだろうか」
「明らかなのは、今回の件で韓日関係がさらに冷え込むいうことだ。外交慣例を破って非公開部分まで公開したのは、安倍政権としては不快でしかないだろう」
東亜日報は「不足部分」の「補完・修正・追加」主張
東亜日報も、非公開部分の公開を
「国際社会に韓国への信頼を落とす口実を与えたという点で残念」
だと論評。ただ、河野太郎外相が
「合意を変更しようとするのであれば、日韓関係がマネージ不能となり、断じて受け入れられません」
とする談話を出した点については、日本政府が「合意後も、その精神に関係なく、しらを切ってきた」として「脅迫は妥当でない」と主張。その上で、
「たとえ前が不十分な合意をしても、政府間の約束は、一方的に変更するのは難しい。合意で評価できる部分は評価し、不足している部分は、今後補完・修正・追加するのが賢明な方向だ」
などと主張した。
当然のことながら、合意を結んだ当事者もTFの検証に否定的だ。朝鮮日報によると、合意時に外相だった尹炳世(ユン・ビョンセ)氏は、
「複雑な難しい外交交渉の結果とプロセスを、外交慣例を無視して、外務省70年の歴史に前例のない民間TFという形式で一方的に公開したことは、今後、私たちの外交に対する国際社会の信頼を低下させるだろう」
と非難するコメントを出している。