この1年、いろいろなことがあったが、既存メディアの窮状・劣化を感じざるを得なかった。
このJ-CASTコラムは月2回のペースで書いているが、掲載日当時にその時々の話題を書いている。そのためか、今2017年はモリカケの話題が多く、やや偏ってしまった。正直言えば、既存メディアで取り上げたモリカケ問題が的外れだったので、本コラムで書きたくなったのだ。
マスコミの役割として「疑惑」を報道するのはいいが...
少なからぬマスコミは、両問題ともに安倍首相の関与や意向が働いたとしていた。一方、筆者は、森友学園については、初期段階の近畿財務局が地中ゴミでの説明不足等の事務チョンボ、加計学園問題については政府内手続きでは問題なかったが文科省内の意味のない文書を前文科次官やマスコミが煽っただけとしていた。
はじめの段階では筆者への批判も少なくなかったが、今の段階でみても筆者の見立ての方が既存メディアよりまともだったと自負している。
最近になって、モリカケを追っていたマスコミの人が筆者のところへよく来る。筆者が当初から安倍首相の関与や意向に否定的な論調をネットなどで書いていたのを知っていたようだが、そのときには筆者のところへの取材はなかった。それが今になって来るのは、マスコミの人もモリカケで年を越すわけにはいかずに、一応の区切りなのかもしれない。筆者は、マスコミの人の疑問に答えるだけであるが、最後には、「皆さんが新しいエビデンスを出せば、私は意見を変えるでしょう。しかし、何もエビデンスが出せなければ、皆さんの意見も変えたほうがいい」と言うことにしている。
マスコミの役割として「疑惑」を報道するのはいい。しかし、半年以上も新たなエビデンスが出せずに、疑惑を報道し続けるのはやめたほうがいい。
モリカケについては、まだ議論があるようだ。小川榮太郎氏の『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』に対して、朝日新聞が東京地裁に訴えたのだ。12月25日、朝日新聞サイトで公表している。
議論できる場で徹底的な議論を
言論の場を提供できる言論機関が訴えたのは尋常でないだろう。かつて、学者の間で論争になったとき、一方が裁判に訴えるといいだし、実際にその準備をした。まわりの人は、裁判でやらなくとも議論する場はいくらでもあるのだから、徹底的に議論すればいいと言った。今の筆者もそれと同じ感想である。朝日新聞は、裁判に訴えなくても、グループ内の出版社を通じて反論書を出版したり、公開討論をしてテレビやネットで流したりしたほうが言論機関らしい対応だろう。しかし、それでは朝日新聞にとって勝ち目はないのかもしれない。
その中で、朝日新聞・高橋純子氏から、「エビデンス? ねーよそんなもん」といった主張も交える新聞コラムをまとめた著書『仕方ない帝国』(河出書房新社)という興味深いものが出てきた。この方は、名物記者であり、昨16年初めのコラム「だまってトイレをつまらせろ」などで安倍政治を批判するなど、いろいろと面白い話題を提供してくれる。
それにしても、モリカケについては、マスコミはもう少しエビデンスをきちっと見たほうがいいと、老婆心ながら思ってしまうほどだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「ついにあなたの賃金上昇が始まる!」(悟空出版)など。