政権打倒の流れか反欧米テロの流れか
パレスチナ問題が中東危機の引き金となるのは、歴史的にイスラエル建国やパレスチナ問題を生み出した欧米の中東に対する欺瞞的な関わりと、言論の自由も民主主義もない中東の政治状況など、中東が抱える矛盾が、パレスチナに集約されているためだろう。パレスチナで紛争が激化すれば国際的な問題となり、アラブ諸国の対応にも注目が集まり、過激派を含む政治組織の活動も活発化する。
アラブ世界のイスラム過激派は、イスラエルとの平和条約を結んだエジプトのサダト大統領を暗殺したジハード団のように政権打倒に動く流れと、9・11米同時多発テロを起こしたアルカイダのように反欧米テロに動く流れがある。どちらの過激派も、今回のトランプ大統領の決定に対するアラブ・イスラム世界の民衆の怒りを、自分たちへの力に変えようとするだろう。
現在のシリア内戦やISの樹立は、2011年の「アラブの春」という大規模な危機のつながりであるが、IS首都の制圧で外見的には危機は終息に向かっている。しかし、エルサレム問題に火をつけるトランプ氏の決定によって、中東が抱える政治的な矛盾が強まり、新たな危機の噴出に向かって動き始めたと考えるべきである。新たな危機が「アラブの春」のような中東での政治危機になるのか、「9・11米同時多発テロ」のような欧米での大規模なテロになるのか、または湾岸戦争、イラク戦争のような戦争になるのかは、今後、中東情勢を注視していくしかない。
(中東ジャーナリスト・川上泰徳)