2017年の中国の冬は、これまでのどの年に比べても寒く、北方の民家、企業、学校、さらに病院で、天然ガス不足から暖房が完全に供給停止に追い込まれたケースが起き、ネット上で怨嗟の声が止まらない。
12月16日にJ-CASTニュースでも報じた北京の出稼ぎ労働者らの強制排除事件や、幼稚園の児童虐待事件に加え、政府の政策に起因した、もう一つのホットな事件が起きた。
「スモッグに覆われた空をきれいにせよ」
中国は十数年前から天然ガスの使用を徐々に増やし、深刻な大気汚染を招く石炭依存からの脱却に努めてきた。そして、今秋、「スモッグに覆われた空をきれいにせよ」という国民からの圧力が強まり、政府は足取りを速める決定を行った。
中国政府は今冬、「北方の多くの地方の大気汚染を15%削減するように努める」と公に宣言した。中国の北部地方は大気汚染が最も深刻だが、この地域では、特に寒さが厳しい数カ月、普通は石炭で暖を取ってきた。
しかし、政府は今秋、検査人員を学校、企業、家庭に派遣して、ストーブやボイラーの閉鎖、天然ガスへの転換を命じただけでなく、大量の石炭燃焼設備の撤去、移動を命じ、その命令に抵抗することを許さなかった。
今年の冬の訪れは比較的早く、しかもひどく寒かったことから、とりわけ強い暖房要求が起こった。一方で、天然ガスを輸送するパイプラインがまだ完成していないため、天然ガスの供給不足が起きた。
結局、北方の多くの人々は暖房不足の室内で震えているしかなく、農村だけでなく、一部の都市部でも同じような状況となった。ネット上では民衆の怨嗟の声が沸騰し、もはや『人民日報』でさえ見過ごすことができず、室内の方が寒いからといって、小学生が零下の屋外で授業をしている写真を掲載した。屋外であっても、「とりあえず日光があるからまだまし」ということなのだろう。
情勢は非常に深刻で、中国のいくつか中央政府部門(環境保護省や発展改革委員会)と地方政府は、通達を出して、大気汚染削減の政策執行に「ブレーキ」をかける緊急措置を取った。
低価格政策が招く天然ガス不足
北京では、市政府が公開の形で、それまでは声高に宣伝していた石炭使用停止政策を取り消し、北京市東南部郊外の大型火力発電所を再起動した。
また、企業の天然ガスの使用を制限して民用に回し、中国西部では一部の大型化学工場を少なくとも4カ月間、操業を停止させ、そこで使用する予定だった天然ガスを家庭と学校の暖房用に回すことにした。
中国が消費する天然ガスは生産量に比べて非常に多く、不足分は輸入で補っている。また、中国は、エネルギー大手の天然ガスの販売価格を国が低価格に統制し、国内で使用される天然ガスを石炭よりも清潔な代替燃料にしようと奨励している。
しかし、低価格を維持するということは、エネルギー会社に天然ガスの生産増、輸入増の動機を持たせないことを意味する。中国石油(ペトロチャイナ)のレポートによると、今年の前3四半期の天然ガス部門の赤字は2016年同期比で大幅に上昇している。
「これは天然ガスの使用拡大を約束して以来、中国で顕著になった最も厳しい天然ガス不足である」と、12月13日の『ニューヨーク・タイムズ』はエネルギー業界関係者の話を引用して報じた。
中央の命令をひたすら加速度的に執行していく地方
最近の中国の世論で特徴的なのは、中国政府の慢性的な「迷走」に対する国民の反感である。
中央が何かをやろうと決定すれば、条件不足、実行可能性不足の恐れがあっても、各部門、各地方はひたすら執行しようと頑張るだけで、政策決定者に反対意見を出そうとはしない。最終的には執行できないことに気づき、はなはだしい場合には社会的な混乱を引き起こし、それから慌てて「急ブレーキ」をかける。
政府内の不都合は副次的だが、苦しい目にあうのは民衆と企業だ。北京の出稼ぎ労働者ら「ローエンド人口」強制排除事件、児童虐待事件などもその典型である。
今回の天然ガス不足は、中国が大気汚染制御と石炭依存から脱出するプロセスが、かくも多くの苦痛を国民に与え、その代償もべらぼうに高いということを明らかにしている。化石燃料は中国経済を世界第2の座に押し上げたが、中国が石炭依存から抜け出す行動は、おそらく全中国ひいては、世界的に影響を与えることになるだろう。
政府は市民の石炭使用に目をつぶるようになったが、もうストーブを取り壊されているケースも多く、かなりの人は厳寒の中で震え、3カ月後に来る春をひたすら待っているだけである。
(在北京ジャーナリスト 陳言)