楽天が携帯電話の「キャリア事業」に新規参入する。自前で回線を持つキャリア事業者は、これまでNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクグループの3社だけだったが、これで「第4の選択肢」ができることになる。3社寡占で料金の高止まりが指摘されてきた日本の携帯市場に風穴を開けるとの期待の一方、飽和状態の携帯市場でシェアを獲得していくのは簡単ではないだけに、危険な賭けともいえ、株式市場では年初来安値を更新した。
2017年12月14日、発表した。年明けにキャリア事業を手がける新会社を設立し、通信規格「4G」の周波数帯の割り当てを総務省に申請する。認定されればイー・アクセス(現在はソフトバンクに吸収)以来、13年ぶりに自前の回線を持つ事業者が誕生する。2019年中のサービス開始を目指す。
強みは「楽天経済圏」
携帯市場は3社による寡占状態で、料金引き下げは不十分だとみる関係者は多い。菅義偉官房長官は14日の記者会見で「市場の公平、公正な競争を通じ利用者にプラスに料金やサービスを期待したい」と歓迎。野田聖子総務相も、15日の閣議後会見で「個別事業者の動向についてのコメントは控える」としつつ、「地方も含めた全国的なモバイル環境整備につながることを期待する。公正かつ適切に審査を行う」と期待感をにじませた。
現在楽天は、格安スマホ「楽天モバイル」を展開している。140万人を超える契約者を抱え、参入から3年あまりで格安スマホ業界ナンバー1の地位を築いた。だが、あくまでも大手から回線を借りて利用するというビジネスモデル。基地局設置などの設備投資費用がかからない利点はあるが、大きな利益を生み出せないのが致命的な弱点だ。他方、「本業」のEコマースは米アマゾンの攻勢を受け、苦戦を強いられている。局面打開のために、「次の一手」を打ち出す必要があった。
その一つの答えが、自前の回線を持ち、リスクを抱えながらもリターンを得ることだった。強みは「楽天経済圏」だ。Eコマース、旅行予約サイト、クレジットカード、オンライン銀行・証券など幅広い事業を展開。経済圏内のさまざまな場面で貯まり、使える「楽天スーパーポイント」を活用することで、顧客を囲い込んでいる。経済圏に携帯事業も組み込み、充実させたい考えだ。サービス開始時には2000億円、2025年までには最大6000億円をつぎ込んで基地局の設置などを行う予定で、1500万人以上の契約者を目指している。
魅力的な料金プランやサービスを提供できるか
だが、キャリア事業3社の背中はあまりにも遠い。2~3位のKDDI、ソフトバンクは4000万件弱~5000万件弱の契約者を抱え、NTTドコモに至っては7000万件を超える。ソフトバンクがここまで成長できたのも、2006年に英ボーダフォンの日本法人を買収できたからで、一から作り上げたわけではなかった。楽天モバイルがあるとはいえ、140万人という契約者数は、先行3社に比べればゼロからの出発同然だ。
株式市場は楽天の挑戦は負担が大き過ぎるとみており、発表日から売り注文が優勢。市場全体が高値をうかがう中、発表翌日の15日には一時、1011円と今年の最安値をつけ、その後も1010~1040円台で推移。本業への不安もあって夏以降、株価は低迷していたとはいえ、6月に付けた年初来高値1408円からは約25%も落ちている。競争が激化して利益が減るとの懸念から、他の通信株も軒並み売られる「おまけ」付きだ。
他社から顧客を奪えるだけの、魅力的な料金プランやサービスを提供できるか。また、機種は日本では圧倒的な人気を誇る米アップルのiPhoneを扱うのか。設備投資にいくら振り向けるのか。三木谷浩史・会長兼社長の経営手腕が問われそうだ。