「これからは『当たり前』になっていくのではないでしょうか。ウォシュレットもかつては、なくても良い機能だったのが、今はみんなが『ほしい!』と思うものになっています」――そう語るのは、ITベンチャー・バカン(東京・千代田区)の河野剛進・代表取締役だ。
「同業者」であるKDDIの広報担当者も、今後の広がりに自信を見せる。
「おかげさまで好評です。オフィスや、一般のお客様が利用されるような商業施設など、ニーズがあると考えております」
空き室の状況が一目でわかるアプリ
新興ベンチャーと携帯大手、この2つの企業がともに手掛けているのは、「トイレ」にまつわる事業だ。簡単にいえば、
「トイレの空き室の有無を、スマートフォンやサイネージなど、外部から確認できるサービス」
である。
「も、漏れそう!」、外出先、突然の便意に襲われて飛び込んだトイレ。ところがあいにく、個室はいずれも満員。ほかの階のトイレに行くか? でもそこも満員かも? でも、待つにしても我慢はもう限界――「あ~、いったいどうすれば......!」。そんな経験、読者のあなたも一度はしたことがあるだろう。
そんなときあらかじめ、空いているトイレがわかっていれば?
東京メトロでは2017年12月1日から、池袋駅でそんなサービスの実証実験を始めた。メトロの公式アプリ「メトロラボ2017」を開くと、駅構内にある4か所のトイレについて、各個室の空きの有無をスマートフォン上でチェックできる。
トイレの各個室につけたセンサーで在室状況をチェック、これを通信機器を通じてサーバーに送信し、アプリに反映するシステムだ。最近注目を集めるIoT(モノのインターネット)を利用したサービスである。
メトロの広報担当者は、こう説明する。
「もともと、トイレについてはこれまでも、設備面で各種の施策を行ってきましたが、他に何かできることがないか、検討してまいりました。その中で、少数意見ですが『トイレの空き室状況が入る前に知りたい』という利用者からの声があったことから、実際にそうしたことが可能かどうか、検証するべく始めたものです」
今回は2018年2月28日までの「期間限定の実証実験」ではあるが、利用状況を見つつサービス拡大に向け検討を進めるという。
すでに小田急では導入済み
こうしたサービスを17年6月、いち早く導入したのが小田急電鉄だ。新宿駅構内のトイレについて、空き室の有無をアプリ上でチェックできる。「お客さまから弊社に対していただいているご意見・ご要望やSNSなどから前向きなご評価をいただいていると考えております」(広報担当者)とのことで、やはり今後、利用客の意見も踏まえながら、他の駅や商業施設にも展開を検討するとしている。
IoTによるトイレ空き室の管理サービスは、近年複数の企業が参入している。主なクライアントは、一般客へのサービスとして導入を進める駅や商業施設のほか、企業などが自社オフィスで社員向けに導入する事例も多い。
小田急のサービスを開発しているのが、上記のKDDIだ。もともと、法人向けにイントラネットの提供を手掛けてきたが、「多くの法人のお客さまが、トイレに関する問題を抱えています。そのソリューションとして、今年から『KDDI IoTクラウド ~トイレ空室管理~』を立ち上げました」(広報)。
特に大手企業では、昼休みなどに社員が限られたトイレに殺到する光景がよく見られる。順番待ちのタイムロスやイライラなどは、そのパフォーマンスにも影響しかねない。空き室確認によりこれを効率化するとともに、企業側では利用実態を把握し、改善を図れるというのがアピールポイントだ。小田急などへの導入を機に、さらに認知が広がることをKDDIでは期待する。
スマホの普及で「トイレこもり」の時間が増えた?
こうしたサービスが求められるようになった背景はどこにあるのだろうか。
「スマホの普及をきっかけに、トイレへの滞在時間が増えているんです」
そう説明するのは、冒頭に紹介したバカン代表の河野氏だ。2016年に発足したばかりのバカンでは、やはり空き室管理アプリ「Throne(スローン)」を展開している。
あなたも自覚があるかもしれない。便座で息みながら、何気なくスマホを取り出し、ついついネットやゲームをしてしまう――こうした行為が、一人ひとりのトイレの滞在時間を少しずつではあるが伸ばす。一方、トイレの数はそう簡単には増えない。となると、トイレは足りなくなる......。
そうした状況で、従業員の生産性向上のため、あるいは顧客満足度を高める手段として、IoTによるトイレ空き室管理に、企業の注目が集まっていると河野氏は語る。
ウォシュレットの発売から40年弱、今では温水洗浄便座の国内家庭普及率は81.2%に達する(2016年3月時点、内閣府の消費動向調査より)。IoTは、日本のトイレに再びイノベーションを起こせるか。