【ごごナマ 知っトク!らいふ】(NHK総合)2017年12月12日放送
「そうだったのか!もの忘れと認知症」
片付けた場所が思い出せない、顔はわかるが名前が出てこない、直前までやるつもりだったことを忘れる...など、誰しも歳を取るにつれて忘れっぽくなるものだ。
しかし、ただのもの忘れなのか、認知症の始まりなのかを判断するのは難しい。番組では、もの忘れと認知症の違いを始め、認知症の予防・改善に効果的な生活習慣も紹介した。
覚える力自体が衰える認知症
精神科医の須貝佑一氏によると、人間の記憶は(1)覚える(2)保持する(3)引き出すのサイクルでできている。覚えたことを一度脳内に蓄え、後から思い出すという流れだ。
通常のもの忘れは(1)(2)は問題なくできるが、(3)の力が弱まっているのに対し、認知症は(1)と(2)の力も衰える。思い出す以前に、思い出す記憶が脳にない状態となる。
もの忘れと認知症の簡単な見分け方が以下だ。
もの忘れは、
(1) ドラマに出ていた俳優の名前を忘れる
(2) 買い物に行って卵を買い忘れる
(3) 買い物に自転車で行き置いた場所を忘れて探す
対して認知症は、
(1) ドラマを見たことを忘れる
(2) 買い物に行ったのを忘れて卵を何度も買ってしまう
(3) 自転車で来たのを忘れて他の手段で帰宅する という違いがある。
認知機能の低下と戦う元新聞記者
認知症には、前段階の「軽度認知障害」がある。軽度の状態から5年間で半数が認知症になるといわれるが、早期発見して改善策を取れば、軽度のまま生涯を終えられたり、正常の老化の範囲まで戻せたりする。
60歳の定年まで新聞社の記者として働いていた山本朋史さん(65)は、61歳の時に軽度認知障害と診断された。
記者時代は、記事の締め切りの深夜1時半までなら、何か事件があればすぐ現場に行き、原稿を書くなどしていた。徹夜は当たり前で、食事はほぼ外食、酒も毎日のように飲む不規則な生活を送り、不眠に悩まされた時もあった。
61歳を過ぎた頃、以前までとは違うもの忘れが増えたが、仕事で脳に刺激を与えているから認知症のはずがないと思った。しかし同日同時間帯に違う相手へのインタビューの予定を入れるという重大なミスを犯し、意を決してもの忘れ外来へ。検査の結果、軽度認知障害と診断された。
「自分は認知症なのか」と大きなショックを受けたが、医師の勧めなどに基づき、7つの習慣付けをスタートした。
(1)運動
毎日1万歩以上、できるだけ早歩きで散歩する。有酸素運動は血流を促進させ、脳機能を向上させると考えられる。また、認知症の発症リスクは、早歩きを維持できる人を1倍とすると、どんどん歩く速度が遅くなる人は2.05倍という研究結果がある。
筋力トレーニングにも励む。筋肉を動かすと、脳から筋肉、筋肉から脳へと情報伝達が繰り返され、脳のトレーニングにもなる。
(2)料理
料理の経験はほとんどなかったが、今は朝食と昼食を手作りする。複数のメニューを、段取りを考えながら同時に作るのが、認知機能の低下を防ぐ。
(3)歯みがき
1日6回の歯みがきを欠かさない。自分の歯で噛むと脳に刺激が与えられ、認知症リスクを下げる。
(4)音楽
楽器を演奏すると、記憶力や注意力が改善するという報告があり、認知症予防に注目されている。山本さんは昔から音楽が苦手だったというが、診断を受けてから中世ルネサンス時代のヨーロッパの楽器「プサルテリー」を演奏し始め、徐々に上達している。新たなチャレンジも脳の活性化につながる。
(5)絵画
スケッチは発想力や集中力を鍛える。
(6)脳のトレーニング
注意力などを高めるゲームを毎日プレーしている。
(7)睡眠
脳内に「アミロイドβ」というタンパク質が沈着し、神経細胞を死滅させることでアルツハイマー型認知症が発症すると考えられているが、睡眠はその有害物質を除去する。山本さんは夜は7時間睡眠、昼は30分以内の昼寝をしている。
特にオススメは「運動」と「音楽」
3年以上7つの習慣を続けた山本さんは、認知機能が大きく改善した。その日してしまったミスを毎日記録しているが、1か月に60回以上あったミスが、今では15回程度にまで減った。
山本さん「今でも不摂生な生活をしていたら体はボロボロになっていたと思う。(軽度認知障害と)診断されてよかった」
山本さんは自分が楽しいと思えることを、1日15~20分ほどの短時間だったから続けられたというが、それでも全てこなすのは大変そうに感じられる。須貝氏は特に「運動」と「音楽」を勧める。
須貝氏「何もしない人の認知症リスクを1とすると、楽器を演奏する人は0.2くらいに減る」
診断は早ければ早いほど改善の可能性も高まる。少しでも心配があれば、もの忘れ外来など、認知症専門の病院に足を運んでみて。