日本原子力発電(原電)が、2018年11月に稼働40年を迎える東海第2原子力発電所(茨城県東海村、出力110万キロワット)の運転延長を原子力規制委員会に申請した。認められれば最大20年間延長可能になる。
同様の延長は、関西電力の高浜原発1、2号機と美浜原発3号機(いずれも福井県)が認められているが、事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型の原発での申請は初めて。原電は追加の安全対策工事にも取り組み、規制委の認可を得て2021年以降に再稼働させる計画だが、資金面や避難計画など課題は山積みで、大手紙でも原発推進論の読売などを含め、もろ手を挙げて賛成する声は少ない。
資金問題
原電は4機の原発を持つが、東海原発(東海村)と敦賀原発(福井県)の1号機はすでに廃炉が決まり、東海第2と敦賀2号機は福島の事故で運転を停止したままだ。このうち敦賀2号機は規制委が新たに導入した審査基準での審査で、原子炉建屋の直下に活断層が走っている可能性が指摘され、再稼働は見通せない状況。そうなると、動かせる可能性があるのは、現状では東海第2だけで、運転延長して再稼働できなければ会社として存在する意味を失いかねない瀬戸際にある。
だが、実際の再稼働への道のりは平たんではない。
第一に、資金問題だ。防潮堤の設置、その液状化対策、電気ケーブルを燃えにくいものに交換するなど安全対策の工事費が約1800億円かかると見込まれ、これとは別に1000億円規模のテロ対策費も必要になる。しかし、現在、1ワットも発電していない原電は、電力各社からの「基本料」という名目で受け取っている年間1100億円でやりくりしているのだから、資金的余裕はない。そこで、規制委は安全対策費の債務を保証するスポンサーを探すことを、事実上の再稼働の条件として提示している。
誰が保証するのか。もともと、原電は日本の原発のパイオニアとして大手電力会社と電源開発(Jパワー)が出資して設立した国策会社で、資金の面倒を見るのは大手電力しかない。しかし、原電への基本料の3分の1以上を負担する東電の経営も余裕はなく、自前の原発である柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働さえ見通しが立たない中、消費者の払う電気代が、発電もしない原電に回されていることへの反発が今でもある。
「経済産業省は東電の再建の過程で、原発について、他電力との共同原発再編事業体の設立を含めた再編を視野に入れており、そこに原電も含めて検討することになる」(大手紙経済部デスク)といわれるが、お荷物と化した原電を抱える余裕が、各電力会社にあるのか疑問視する声もある。
避難計画と地元自治体の同意
資金のめどがついても、2018年11月末に運転開始から40年を迎えるため、それまでに安全審査に合格し、工事計画と運転延長の2つの認可を得なければならないが、むこう1年以内に完了するか、予断を許さない。クリアできなければ、即時廃炉に追い込まれる。まさに綱渡りだ。
東海第2のもう一つの大問題が避難計画と地元自治体の同意だ。半径30キロ圏の14市町村の人口は約96万人と全国の原発で最も多い。
東京電力福島第一原発事故を受けて原子力規制委員会は、それまでの目安だった半径8~10キロから、国際原子力機関(IAEA)の基準に合わせた半径30キロを「防災重点区域」とし、避難計画を含む防災計画も同県内について策定することになった。しかし、東海大2の場合、これだけの住民を安全に避難させるのは容易でなく、広域避難計画の策定は難航し、どの市町村もできていない。各市町村は茨城県が2015年に策定した広域避難計画を基に検討を進めているが、実効ある計画を策定するめどは立っていない。
避難計画とも絡んで、自治体から再稼働への同意取り付けも、法的な義務ではないが、事実上は必須になっている。原電は県・東海村と安全協定を結んできたが、水戸市、ひたちなか市など周辺5市から同様の協定締結を求められ、今回、要求に応じることを表明した。そうなれば、東海村を含む6市村のうち1つでも反対すれば再稼働できない事態もあり得、従来以上の「地元対策」が必要になる。
こうした状況を受け、新聞の社説(産経は「主張」)の論調は概して厳しい。朝日、毎日など脱原発を掲げる各紙は「廃炉が避けられない」(朝日11月24日)、「延長申請 自己保身が主目的の選択」(毎日12月5日)などとして、「原電では他の原発の再稼働が見込めず、東海第二の行く末が会社の存亡を左右する。だからといって再稼働ありきは許されない」(朝日)との姿勢で、「東海第2原発がなくとも、国内の電力需給に大きな影響はない」(毎日)、「電力不足への対応など特別な必要性があるとも思えず、原電の経営の都合だけで延長を認めるべきではない」(朝日)と、東海第2不要論を展開する。
過剰規制?
特に、「原発40年廃炉の原則」を強調し、「規制委が認めれば最長で20年間延長できるが、あくまで例外的措置とされた。......このままでは40年原則は形骸化する」(毎日)と、危機感をあらわにする。
これに対し、原発推進の読売(11月25日)は、「20年間の延長を前提に再稼働にこぎ着ければ、東京、東北両電力の安定電源となろう」と、基本的には延長を支持しつつ、「ただし、難題が山積みだ」として、安全対策に1800億円必要であることを取り上げ、「(原電の)経営の足元は揺らいでいる。......出資している東電などにとっては、難しい判断を迫られる」と、不安を展開。大がかりな避難計画策定の必要も指摘したうえで、「最終的な判断に際しては、原発の必要性やリスクに関する冷静な議論が不可欠である」と、珍しく突き放した書きぶり。社説以外の一般記事でも11月25日の3面「スキャナー」で「再稼働 原電に難題」「資金めど立たず」「避難計画、自治体同意も焦点」と、再稼働へのハードルの高さを強調。今回、社説で取り上げていない日経も、一般記事では、同様に懸念される点を指摘している。
一方、同じ原発推進の産経(11月25日)は「この40年超えが正念場だ」(11月25日)として、東海のつまずきが国のエネルギー行政に負のインパクトを与えることへの警戒感を前面に押し出し、「万一、時間切れでの廃炉を迎えると電力会社は審査リスクの高さを嫌い、延長を断念するケースが増えよう。そうなれば、2030年度での健全な電源構成目標として政府が見込む原子力の比率(20~22%)に届かず、狂いが生じる」との懸念を指摘したうえで、安全対策の費用について実質的に債務保証するスポンサーを求めていることに、「電源車の配備などを条件として稼働を認め、安全審査を並行していれば、原電や各電力会社は料金値上げもなく強固な安全対策を採れていたはずだ。この際、規制委に自問自答を求めたい」と、「過剰規制」と言わんばかり。地元自治体との関係についても、「安全協定は、法的根拠を欠いたまま既成事実化しつつある。国が前面に出て調整に当たるべき課題である」と、見直しを求めて国に発破をかけている。