「問題を病院に押し付けるのが今の日本社会」 青年の死から考える精神医療の現状

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他の病院で働く看護師も「他人事と思えない」

   暴行事件が起きたのは2012年1月1日だった。16時7分に看護スタッフが陽さんの病室に入り、おむつ交換の準備のためズボンを脱がされ、そのまま食事を与えられた。食事を終えるとすぐに陰部を拭かれ、おむつを交換された。全てのケアを終えたスタッフが部屋から出ていくまでにかかった時間は10分にも満たなかった。

   病院への取材は係争中のため断られたが、匿名を条件に取材に応じた元職員によると、陽さんのケアを行ったスタッフは、人の嫌がる仕事を買って出る働き者として知られていたという。

   別の精神科病院で働く看護師からも、他人事と思えないとの声が上がった。

   「さっさと終わらせようってのはあります。さっさと食事を食べさせて、これでおしまいね、って言うことはあります」

   「ゆっくり時間をかけて、患者の状況に合わせながら対応できればいいんでしょうけど、日勤から夜勤に切り替わるのに作業を引き継ごうとすると、対応する人数が減るので、介護抵抗の強い方の介助ができないんですよ。その患者さんとばかり関わるわけにいかず、日勤でできることは済ませておくという考えは働くと思います」

   精神病床の人員配置の最低基準は、医師が一般病床の3分の1、看護師が4分の3だ。人手不足の現場では、患者の気持ちより他のスタッフへの気遣いが優先されるとの声もあった。

   暴行から2年後、寝たきりになっていた陽さんは転院先の病院で亡くなった。暴行と死亡との因果関係はこれから再び裁判で争われる予定だ。

   文明さんは陽さんをどう支えたらよかったのか、今でも悩み続けている。

   文明さん「最善の道だと思ってやった行動が結果的によくなかった。そして死という現実が出た」

   高木氏「親御さんとしては精一杯心配して、少しでもいい医療を受けさせようとした。今の仕組みの中では最善のことをやっているはず。でもそんな危うい最善しかなかった。現状では一番真っ当なことをしたと思います。でも結果は最悪だった。誰も悪くないけど、皆が責任がある社会ということかもしれない」

   陽さんは亡くなる前、見守る家族を前に「僕の人生、どうしてこうなっちゃったんだろう」とつぶやいたという。

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