二つの新しい税金が創設されることになった。J-CASTニュースでも2017年9月17日に報じた「出国税」(国際観光旅客税)に続き、「森林環境税」も一気に具体化し、12月14日に決まった2018年度与党税制改正大綱に盛り込まれた。
それぞれ、訪日外国人を中心とする旅行環境の整備、森林の整備という「大義名分」があるとはいえ、国税での新税導入は27年前の1992年の地価税以来という「大ごと」なのに、さしたる議論もなくスンナリ決まった印象だ。
異例のスピードで導入に突き進んだ
新税の構想はしばしば浮上するが、実現することはめったにない。近年では、携帯電話税やパチンコ税などを導入しようという声が与党などから上がったが、実現していない。外務省が長年、創設を求めている飢餓や感染症などに対応する国際連帯税もたなざらしだ。ちなみに、地価税はバブル期の地価高騰を受け土地神話を叩き潰すため導入されたが、地価が下落に転じたため1998年に「当分の間」課されないこととされ、事実上、廃止された。
出国税は、外国人か日本人かにかかわらず、また、観光目的かビジネスかといった目的のいかんを問わず、日本から出国するすべての人から、出国の度に1000円を航空運賃、船賃などに上乗せして徴収するもの。訪日客を2020年に4000万人にするとの安倍晋三政権の目標に向け、首相官邸の意向を受け、観光庁が有識者会議を9月に設置し、2か月足らずで導入を提言するという異例のスピードで導入に突き進んだ。
2016年の訪日客、日本人計約4100万人が出国しており、単純計算で、観光庁の17年度予算(約210億円)の2倍近い約410億円の税収が見込まれる。観光庁は、出国税収を活用し、海外での観光宣伝強化、多言語の観光案内の整備、出入国管理体制の強化や出入国手続きの円滑化などを進める方針だ。19年度(19年4月)の導入を想定していたが、終盤の議論で1月に前倒しに。中国人観光客が押し寄せる2月の春節前に始めて税収を稼ごうということで、3月までの分(100億円程度)は18年度の税収になるので、同年度から観光振興策に使えるというわけだ。
一方、森林税は個人住民税を納めている約6200万人を対象に、1人当たり年1000円、住民税に上乗せして徴収する。住民税に1000円を上乗せしている復興特別税終了を待って2024年度からの導入になる。年間約600億円の税収は森林面積などに応じて原則、市町村に配り、荒れた森林の間伐や人材育成などに充てる計画だ。19年度から始まる見通しになった人工林を保全する新事業「森林バンク」制度の財源確保という位置づけもある。
両税には様々な問題点が指摘される。
森林税については、37府県と横浜市が同様の地方税を独自に導入済みとあって、今、国が新税を創設する必要があるのかは疑問だし、自治体の税と税金の二重取りにならないよう、いかに調整するかという難題もある。
唐突に導入が決まっていった経緯
そもそも、国民の負担増を極力回避するために、歳出削減で財源をねん出するのが本来の行政の在り方で、実際に、各省の予算は、新しい施策のためには別の不要不急の予算を削って財源を確保する「スクラップ・アンド・ビルド」が大原則だ。新税で負担を求めるのには、極めて慎重であるべきだ。
しかも、この新税は悪名高い「特定財源」、つまり、特定の目的にだけ使う税金で、税収を使い切ろうとして、無駄遣いになる懸念がある。かつて、ガソリン税は道路特定財源だったが、無駄な道路を造り続ける温床と批判されただけでなく、関係する役所の福利厚生のためとしてカラオケセット購入や職場旅行などにまで使われたことも発覚し、09年度から一般財源化されたのは、記憶に新しい。
このため、全国紙の社説(産経は「主張」)は、一様に批判的だ。
出国税には、日経(10月1日)が「『観光立国』をめざし、日本経済の活性化につなげようという発想は理解できる」、産経(11月11日)も「訪日客に対して一定の負担を求める方向性は理解できる」と、一定の理解を示すが、「観光庁の有識者会議の報告書には、『あらかじめ使途を限定しすぎることは適切ではなく、ある程度幅広く対応できるようにすべきだ』とある。こういう施策にいくらかかるから新税しかない、という論理ではない」(毎日12月10日)など、必要額を積み上げた結果、財源が足りないから新税を設けるという手順を踏んでいないとの批判は、各紙に共通し、産経が「肝心の新税の使途が明確ではない」と疑問視、日経も「(観光振興の)手段として出国税が妥当かどうか。冷静に検討する必要がある」とくぎをさす。
唐突に導入が決まっていった経緯にも「新税ともなれば、目的と使い道、負担の程度と影響などについて十分に検討が要る。その上で、国民への説明を尽くさなければ、幅広い理解は得られまい」(読売11月15日)、「有識者会議は非公開で、審議内容は配布資料や報道関係者への事後説明で概要がわかる程度だ。千円以内とする徴収額については、会議を開かず、観光庁が委員らと水面下で調整して固めた。こんな透明性を欠くやり方で、幅広い理解を得られるだろうか」(朝日11月10日)と、疑問符を突き付ける。
さらに、懸念が大きいのは「特定財源」であること。「最大の問題は、無駄遣いを防ぐ手立てが見えないことだ。......特定財源のような手法は負担と受益の関係が見えやすい半面、特定省庁の既得権益となり、無駄な予算を生みやすいという弊害がある」(朝日)、「必要な経費だというなら、税収を使途の特定がない一般財源に入れたうえで、別途、予算要求すればよい」(毎日)、「特定財源とはせず、一般財源として財政健全化にも活用できるようにすべきだ」(日経)、「財源を使い切ることが政策展開の前提になっていけば、バラマキに陥らないか」(読売)など、そろって批判的な書きぶりだ。