母親は男の胎児をアレルギーのように「異物」と認識?
その仮説を立証するために、142人の女性と12人の男性の血液を採取した。女性たちは「息子がいない女性」「異性愛者の息子の母親」「同性愛者のひとり息子の母親」「兄弟がいる同性愛者の息子の母親」などだ。また、男性は異性愛者と同性愛者だ。そして、「NLGN4Y」というタンパク質の血中濃度を比較した。すると、同性愛の男性と、下の息子が同性愛者である母親に「NLGN4Y」が多いことを突きとめた。つまり、「NLGN4Y」が男性を将来、同性愛者にするカギを握っていたわけだ。
「NLGN4Y」とはどういうタンパク質で、どういう働きをするのか。ヒトの染色体はX染色体とY染色体の2種類があり、女性は「XX」、男性は「XY」だ。ボガード教授の説によると、「NLGN4Y」は男性だけが持つ「Y染色体」に関係するタンパク質だ。母親は1人目の男児を妊娠すると、「Y染色体」を持っていないため、男児を「異物」と認識するという。そのため、「NLGN4Y」を攻撃する抗体を作り出す。よく花粉症や食物アレルギーの人が、アレルギー源に対して免疫機構が過剰に反応し、抗体と作り出すのと同じ仕組みだ。そのアレルギー源にあたるのが「NLGN4Y」なのだ。
そして、母親が二番目、三番目の男児を妊娠するたびに抗体が増え、胎盤を通して胎児の脳に達して性的志向に影響を与えるという。
ボガード教授は論文の中でこう語っている。
「少なくとも男性の同性愛は本人の選択ではなく、生得的なものであるという考えを固めることに役立つ研究だと思います。兄弟効果の謎は、遺伝だけでは説明できません。母親の胎内のホルモンや抗体によって胎児の脳の発達を変化させた可能性が高いと考えます」