喘息患者にとって激しい運動は禁物だ。運動による刺激で気道が一時的に収縮して狭まってしまい、喘息症状が悪化してしまう「運動誘発性喘息(運動誘発気管支収縮とも)」を引き起こす。
この運動誘発性喘息がトップアスリートにも起きており、選手のパフォーマンスや健康状態を損なっている可能性があるとする研究結果が、2017年12月8日に英ケント大学とロイヤル・ブロンプトン病院によって発表された。
プレミアリーグのトップチームを研究
トップアスリートの健康状態は所属するスポーツクラブなどによって厳格に検査・管理されている。
英国のプロサッカーリーグであるプレミアリーグの場合、各チームは選手たちの心臓に関する厳格な健康診断を行い、明らかな問題はもちろん潜在的な問題も把握し、選手の健康維持と治療に努めるよう求められている。
しかし、肺や呼吸に関する健康についてはあまり関心が高くなく、心臓や頭部への衝撃といった問題に比べると軽視されているのではないかとケント大学のアンナ・ジャクソン博士とジョン・ディキンソン博士は推測。
ロイヤル・ブロンプトン病院で2017年上半期に体力測定と健康診断を受けたプレミアリーグのトップチーム(リーグ優勝もしくは知名度のある選手権優勝経験のあるチーム)2クラブに所属する選手97人を対象に、肺や気道、呼吸の検査を実施した。
すると、気道もしくは呼吸に問題があり、運動誘発性喘息が陽性とされた選手が27人確認されたのだ。さらに、そのうち10人はこれまでに喘息や呼吸器系の病気になったことはなく、純粋に運動の影響によって運動誘発性喘息を発症している可能性があったという。
27人はそれぞれ試合中やトレーニング後に胸の圧迫感、喘鳴(気道などがぜいぜいとなる状態)、咳などの症状があることを自覚していたが、検査によって発覚後投薬治療を受けた結果、症状は改善。
チームのトレーナーやコーチによる客観的な評価でも、「試合でのパフォーマンスが向上しており、体力やフィジカルも以前より向上している」とされていた。
肺や気道検査を義務づけるべき
ディキンソン博士は、運動誘発性喘息は常時確認できるわけではないためクラブ側も把握しづらく、一部の選手は「単に貧弱なだけ」とされ治療が見過ごされてきたと指摘。
「パフォーマンスの向上という明白な効果がある以上、選手の健康のためにも、クラブの戦力向上のためにも肺や気道の検査を心臓検査のよう義務付けるべきだ」
とコメントしている。
ジャクソン博士によると、運動誘発性喘息はサッカーに限らず、常に高強度・高運動量の競技を行っているアスリート、つまり呼吸量が多いスポーツをしている選手にはよく見られるものだという。
ただし、喘息そのものを引き起こす因子は花粉や動物の毛、ハウスダストといったアレルゲンからタバコの煙、ガスまで様々で、例えば「トレーニング後に咳が出たから運動誘発性喘息だ」などと自己診断できるほど単純なものでもない。
ジャクソン博士はスポーツでは肺が激しく働き、内外のさまざまな環境に繰り返しさらされる傾向があるとし、
「運動誘発性喘息であるかどうかに限らず、肺の検査を受けることは理にかなっています。喘息以外の呼吸器の問題が見つかったとすれば、治療することができるでしょう。呼吸器の問題が解消することで、風邪にかかりにくくなるといった効果も期待できます。アスリートは心臓や脳だけでなく、肺にも関心を向けるべきでしょう」
とコメントしている。