高用量の「バニリン」を投与した乾癬マウスは皮膚炎が有意に減少しており、発症抑制効果も期待できる可能性がある――。
こんな研究結果が2017年10月26日に台湾台中医科大学病院の項千芸博士らによって発表された。聞きなれないバニリンだが最近登場した新薬などではない。我々の身の回りで食品などに一般的に使用されている、バニラの香りを生み出す化合物なのだ。
高用量バニリンを投与したマウスの皮膚炎が軽減
慢性的な皮膚疾患である乾癬は、皮膚が白く粉をふいて全身に紅斑が表れることがよく知られているが、これは皮膚細胞の産生が過剰に促進され皮膚炎症を起こすためだ。肘や膝、頭皮、手足が赤くなり、かゆみや痛みを覚える。
皮膚炎を起こした部分を掻いたりしてしまうことで炎症がさらに悪化し、さらに掻いてしまうという悪循環に陥ってしまうこともあるため、軽度から中度の乾癬患者は皮膚炎を軽減させる局所治療が非常に重要だ。
項博士らはバニリンが肝臓やすい臓などの内臓で、炎症を引き起こすことで知られるたんぱく質「サイトカイン」の一種である「インターロイキン」の発現を抑制しているとのする研究結果があることに注目。
2016年に項博士らが行った研究で乾癬における皮膚炎でも「インターロイキン-17(IL-17)」と「インターロイキン-23(IL-23)」が影響していることを確認しており、バニリンがこれらのサイトカインを標的として機能するかを調査することにした。
調査では複数のマウスの背中に乾癬を誘発する化合物を塗布し、人為的に乾癬を起こしたマウスを用意。それぞれバニリンを与えない、体重1キログラムあたり1・5・10・50・100ミリグラムのバニリンを毎日投与し、1週間観察した。
その結果、50および100ミリグラムのバニリンを投与された高用量バニリンマウスは、その他のマウスに比べて皮膚炎が有意に減少していた。
100ミリグラム投与されたマウスの場合、皮膚炎を起こしていた表皮の厚みは29%、細胞の数は27.5%減少している。
さらに、皮膚組織中のIL-17およびIL-23の濃度も低下しており、皮膚炎の抑制だけでなく感染の治療や予防効果も期待できる可能性を示唆していたという。
香料用の人工バニリンは危険な物質でもある
バニリンはバニラ香の元ということもあり、当然バニラビーンズなどにも含まれているが、今回の研究で使用されたものは天然バニリンではなく、人工的に合成されたバニリンだ。バニラビーンズをマウスに大量に食べさせたわけではない。そもそも天然バニリンは生産量が限られており、入手するのは困難だ。
仮に人工バニリンを入手したとしても、それを服用することも推奨できない。バニリン自体は一定の有害性を持っているのだ。今回の研究でも、実験用に無害化されたものを使用しており、クッキーやケーキの香料用のものを適当にマウスに与えているわけではない。
化学物質が健康に与える影響を評価した国際規格「国際化学物質安全性カード」でも、「飲むと有害」「水生生物に悪影響」とされ、皮膚に付着した場合は石鹸で洗浄、目に入った場合は速やかに洗い流すよう指示されている。
そもそも研究結果はマウスで検証されたもので、人体でも同様の効果があるかはこれからの研究次第だ。