「1日に30分以上、週5回のウオーキングが万病を防ぐ」とよくいわれるが、歩く場所を間違えるとせっかくの健康効果が台無しに!
英デューク大学とロンドン大学の研究チームが、大気汚染のひどい都会の繁華街と緑地公園を歩く実験を行なった結果、汚染のひどい地域を歩いてもほとんど効果がないことがわかった。研究成果は科学誌「The lancet」(電子版)の2017年12月5日号に発表された。研究者は「都心部を歩いても健康効果が相殺される。緑の多い所を歩こう」と勧めている。
日本でも「皇居周回」コースのラン&ウオークで論争
日本でもランニング、ウオーキングブームを反映し、皇居周回コースを走ったり、歩いたりする人が増えている。しかし、よくインターネット上では「排気ガスを吸うから健康に良くないのでは」と何度も論争になっている。
研究を行なったデューク大学のプレスリリースによると、研究チームは60歳以上のボランティア119人にロンドン市内の2つの場所を歩いてもらった。1つはロンドンでいちばん車と人通りの多い場所オックスフォードストリートだ。東西2キロ、有名デパートやレストランが立ち並び、世界中から観光客が訪れる。東京でいえば銀座の目抜き通りのようなところだ。もう1か所は市の中心部にある広大なハイドパーク。散歩やジョギングを楽しむ人が集まる市民の憩いの公園だ。東京でいえば代々木公園のような場所だ。
ボランティアは、健康な人、慢性閉塞性肺疾患(かつて気管支炎、肺気腫と呼ばれた肺の病気の総称)や軽度の心臓病を抱える人の3つのグループに分けられた。そして、ウオーキングの前後に、血圧、血流量、肺活量、動脈硬化(血管の柔軟度)を測定した。
肺に病気を抱える人は都心部を歩くと息苦しさを
その結果、両方の場所で次のように大きな差が出た。
(1)肺活量は、ハイドパークでは最初の1時間で大きく向上し、この改善効果はウオーキングが終了した24時間後も続いた。しかし、オックスフォードストリートでは最初の1時間でほんの少し向上したが、ウオーキングが終わると元に戻った。
(2)動脈硬化は、ハイドパークではウオーキング後に健康な人と慢性閉塞性肺疾患の人がともに24%改善(=つまり血管が柔らかくなった)、心臓病の人が19%改善した。しかし、オックスフォードストリートではわずかな改善しかみられなかった。健康な人が4.6%、慢性閉塞性肺疾患の人が16%、心臓病の人が8.6%という結果だった。
(3)特に慢性閉塞性肺疾患の人が、オックスフォードストリートを歩く時に気道が狭くなり、息苦しさを訴える人が多かった。
こうした結果について、研究チームのジュンフェン・ファン教授(環境保健学)はプレスリリースの中でこう語っている。
「ウオーキングは、高齢者や慢性疾患をもつ人ができる唯一の健康トレーニンです。しかし、歩く場所に注意しないと、健康効果が相殺されます。オックスフォードストリートで測定数値が大きく下がったのは大都会に住む人は排気ガスのひどい地域は避けて、緑豊かな広々とした公園を歩くことを勧めます」