アニメ「白雪姫」の王子が、毒リンゴを食べて倒れた王女にキスをしたことは「準強制わいせつ罪」にあたる――。大阪大学の牟田(むた)和恵教授(60)がツイッターで展開したこんな持論が、インターネット上で注目を集めている。
牟田氏は歴史社会学とジェンダー論を専門とする社会学者。今回の「白雪姫」に関する投稿の中では、主に男性に向けてか「こんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたい」とも呼び掛けている。
「いくらなんでもその解釈は...」
牟田氏は2017年12月11日夜のツイートで、電車内で眠っていた女性にキスをしたとして、和歌山県に住む33歳の男が準強制わいせつの疑いで逮捕されたとのニュースを紹介。その上で、「白雪姫」や「眠れる森の美女」などのストーリーについて、
「『王子様のキスでお姫様が長い眠りから目覚めた』おとぎ話、あれも、冷静に考えると、意識のない相手に性的行為をする準強制わいせつ罪です」
との持論を披露した。同じ投稿では、「逆にこんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたいものです」とも訴えている。
牟田氏といえば、13年に著書「部長、その恋愛はセクハラです!」(集英社)を発表するなど、女性のセクハラ問題にも詳しいことで知られる。そのほか、09年から10年までは女性の地位向上などに取り組むNPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」の理事長も務めた。
こうした経歴を持つ牟田氏が投じた「おとぎ話」をめぐる持論が、インターネット上で大きな議論を呼ぶことに。ツイッターやネット掲示板には、牟田氏の意見に反発するユーザーから、
「い、いくらなんでもその解釈はないんじゃないんですか...」
「本物の犯罪と童話を一緒に論じるあたりが、あまりにも非現実的」
「どちらかというと人工呼吸のケースなので性暴力という考えは暴論だと思う」
などの反論が上がった。
一方、牟田氏の持論を支持するユーザーもおり、「だから規制しろとかなら暴論だけどこれは事実だろ」「同意をしていない(意識がない)のにキスをされることは明らかに犯罪行為」などといった意見も出ている。
白雪姫の物語に「気持ち悪くないですか?」
自らの持論に寄せられた否定的な意見に対し、牟田氏はツイッター上で細かく反論している。まず翌12日昼の投稿では、おとぎ話の内容を問題視したことに「文化破壊だ」との指摘が出ていたとして、
「文化や伝統には差別に根ざすものが多々あり、それは変えられていくべきでしょう」
と説明。その上で、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(51)から性的暴行を受けたと告発した伊藤詩織さんのケースを挙げ、
「詩織さんの勇気ある告発で意識無い状態での性行為はレイプであるとの認識が広がった今、おとぎ話ではロマンティックにさえ描かれてきたことに気付くのは意義あると思いませんか?」
とも続けた。そのほか、牟田氏が「白雪姫」などの規制を求めていると誤解したユーザーに対して、「『おとぎ話を取り締まれ』なんて言ってませんよ。冷静にお願いします」と返信する一幕もあった。
さらに牟田氏は、こうした作品を子供に読み聞かせることについても、
「親御さんの本の選択はもちろんご自由ですが、王子というだけで突然女性にキスする、なんて話、気持ち悪くないですか?男の子にそんなDV男に育ってほしくないし、女の子にはそんな無力な被害者になってほしくないですよね?」
と否定的な見方を示していた。
弁護士「強制わいせつ罪の成立の心配はない」
また、物語では当事者の王女がキスを受け入れているのだから問題ないのではないか、との指摘に対しては、
「そのように『結果オーライ』を捏造してどれだけ性暴力が見過ごされてきたか考えてみてください。レイプでも女性は結局は快感を得る、みたいな話と同じです」
と反論。この観点では、プレミア法律事務所(神奈川県横須賀市)の杉山程彦弁護士も、「白雪姫は愛し合う者とのキスで目覚めたのだから、強制わいせつ罪の成立の心配はないと考える」とツイート。しかし、これに牟田氏は、
「このリプ、ホントに弁護士さんなんだったら心配になるレベル」
などと返答していた。