国内外で高い人気を誇る日本酒「獺祭(だっさい)」の製造元・旭酒造(山口県岩国市)が、2017年12月10日付の読売新聞朝刊に掲載した意見広告が、インターネット上で反響を呼んでいる。
紙面1ページをまるまる使ったカラーの全面広告。「獺祭 純米大吟醸50」など基幹商品の希望小売価格を紹介すると共に、次のようなメッセージを大きく記した。「お願いです。高く買わないでください」――。
大手量販店でも「プレミア販売」
旭酒造の「獺祭」は、近年の日本酒ブームの火付け役になったと言われる日本酒。杜氏(とうじ)に頼らない通年生産の体制を確立するなど、革新的な酒造りの手法が生んだ高い品質で支持を広げ、国内だけでなく海外でも高い人気を誇る。
酒の品質を保つため、商品の取扱店を「登録制」にして絞っている点も特徴だ。その数は全国で約630店。旭酒造のウェブサイトでは、販売店を登録制とする狙いについて、
「お客様に、どうしたら私共の酒を、紹介することができるか、低コストで提供することが出来るかを目的として、この登録店システムは考えられています」
と説明。その上で、契約を結ぶ販売店の条件について、「高品質酒の販売価格が適正であること」「高品質酒を最も良い状態でお客様に提供できる店」などと説明している。
その一方、取扱店を限定したことで、「正規の販売店ではない」業者がプレミア価格で獺祭を売り出すケースも出た。つまり、登録店から安価に獺祭を購入したうえで、価格を釣り上げて「転売」する業者が現れたのだ。
実際、「Amazon」などのネット通販サイトで調べると、希望小売価格の「数倍」の値段をつけて獺祭を販売する業者が次々とヒットする。そのほか、大手スーパーや酒量販店でも、獺祭をプレミア価格で販売しているケースが見られる。
つまり、旭酒造が掲載した今回の全面広告は、こうした「非正規店」で獺祭を購入することを避けるよう消費者に訴えるものだ。実際、広告にある「お願いです。高く買わないでください」というメッセージの下には、約630ある正規取扱店の全店リストが掲載されている。
なお、広告で紹介された獺祭の希望小売価格は、ポピュラーな「純米大吟醸50」が1539円(720ミリリットルの税込価格。以下同)で、より精米度合を高めた「磨き三割九分」が2418円、レギュラー商品では最高クラスの「磨き二割三分」が5142円。
「まともな価格で獺祭を買ってもらいたい」
なぜ、消費者に「高く買わないで」と訴える広告を掲載したのか。その理由は、旭酒造の桜井博志会長が同社のメールマガジン「蔵元日記」の中で詳しく解説している。
広告の掲載日と同じ12月10日のメルマガで桜井会長は、新聞広告の展開は今回が「初」だとした上で、「実は訴えたいことがあった」と切り出した。
「それは、獺祭を『私たちの希望小売価格で買ってもらいたい』つまり『不当に高く買って欲しくない』という事です」
その上で、非正規の販売店が獺祭を売る場合、流通にかかる日時が必然的に長期化されるため、流通過程で品質が劣化する恐れもあると説明。客にとって非正規店での購入は、「『品質は悪いわ、値段は高いわ』で良い所は何もない」と切り捨てた。
桜井会長はさらに、「かなりのお客様が獺祭の希望小売価格をご存じないのです。だから割高でも『こんなものか』と思われて購入されるんです」とも指摘。
実際、16年12月に虫の混入で回収・返金を行った際には、回収の対象が希望小売価格2480円の商品にも関わらず、非正規販売店では1万円以上の価格で売られていたため、一部の購入客がその分の金額を返金するよう求めるケースもあったという。
こうした状況から、旭酒造としては消費者のために小売価格を規定したいと考えているが、「再販価格維持禁止法」によって実現はできないという。その上で桜井会長は、旭酒造から販売登録を受けていない非正規の販売店にとって、獺祭は「腹立たしい存在」だろうと推測した上で、
「だからといって、獺祭に愛情も何もなく、ただ儲けの追及のみが目的で獺祭を取り扱いたい酒屋さんに出す気はありません。(略)『お客様に良い状態の獺祭を販売できる能力を持つ酒屋さんだけに販売先を絞る』ということが出来なくなります。お客様の不利益を招くことになります」
と断言。メールマガジンの末尾では、
「本当にお客様にまともな価格で獺祭を買ってもらいたい。品質の劣化した恐れのある獺祭でなく、良い品質の獺祭を飲んでもらいたい。そんな気持ちで本日の新聞広告を出しました」
と改めて訴えていた。