「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の2017年の患者数が過去最多になったことが国立感染症研究所の調査でわかった。
致死率は30%と高い。感染すると患部の腫れが1日で広がり、放っておくと手足が壊死し、多臓器不全になって死亡する恐ろしい病気だ。2017年6月、プロ野球・西武の森慎二コーチ(享年42)も命を落とした。
どんな場所にもいる普通の菌が突然変異で凶暴に
国立感染症研究所の「感染症発生動向調査」によると、2017年の患者数は11月26日までに493人となり、過去最多だった2016年の492人を上回った。同研究所のウェブサイト「人食いバクテリアの正体を明かす」の中で、阿戸学・免疫部第二室長がこう解説している(要約抜粋)。
「1980年代、突然のショック、発熱、手足の激痛で発症し、治療をする間もなく死亡する病気が報告された。患者を調べると病気を防ぐ白血球がほとんどなくなっていた。世界各地で同様の報告が相次いだことから、英国の新聞がこの奇妙な感染症を『人食いバクテリア』と書き、世界中に衝撃を与えた」
「しかし、『人食いバクテリア』という名の細菌は存在しない。原因菌の大部分は、子どもに咽頭炎などを起こす溶血性連鎖球菌(溶連菌)で、あらゆる場所に存在する。重症化のメカニズムは不明だが、最近の研究で、劇症を起こす溶連菌は、普通の溶連菌が突然変異し、体の病気に対する防御・免疫機構を破壊する能力が著しく増大したものとわかった」
このため、糖尿病や肝臓病、心臓病などで免疫力が落ちていると、ほんの小さなすり傷からも菌が侵入、あっという間に病気が進行する。菌が侵入した場所はすぐに壊死し、血が流れないため抗菌薬が使えない。だから傷口のある手足などをできるだけ早く切断するケースもある。