「富岡八幡宮の数々の疑惑について語るスレです」――2017年5月20日、ネット掲示板「2ちゃんねる(5ちゃんねる)」にはこんなスレッドが立てられていた。
12月7日、東京・江東区の富岡八幡宮で発生した殺傷事件は、背景に「宮司」の地位をめぐる親族内の争いがあったことが指摘されている。上記のスレには、こうした確執の生々しい実態、さらには容疑者本人によるものではと思わせるような書き込みが、多数寄せられている。
殺害の女性宮司、中傷する書き込みが多数
「疑惑写真の数々が見たい方は、ネイバーまとめで見れます。『富岡八幡宮 富岡長子様』で検索してください」
「なにやら、富岡八幡宮では神様といえども、宮司代務者様には逆らえない状況にあるようです」
「氏子はこのままでよいのか... 神との取次ぎをするお宮の長の失態が悲しい」
上記のスレッドには5月から夏ごろにかけ、死亡した宮司の富岡長子さん(58)を中傷するような書き込みが大量に寄せられていた。
7日夜発生した事件は、長子さんの弟で元宮司の富岡茂永容疑者(56)、茂永容疑者の妻・真里子容疑者(49)が、富岡八幡宮周辺で長子さんと運転手の男性を日本刀などで襲い、長子さんを殺害、男性に重傷を負わせ、その後茂永容疑者が真里子容疑者を殺害、自らも自殺を図ったと見られている。
有名神社で起こった凄惨な事件は、神社の長である「宮司」の地位をめぐる争いが背景にあると見られている。茂永容疑者は父親(故人)から譲られる形で、いったん宮司となったものの2001年に退任、その後は父親の復帰を経て、長子さんが「宮司代務者」を務め、17年に神社本庁からの離脱後、正式に「宮司」の地位を引き継いだ。茂永容疑者はこれに不満があったとみられ、2006年には「積年の恨み。地獄へ送る」などといった脅迫状を送り逮捕されている(東京新聞、06年1月26日付朝刊)。
一連の内紛を報じた週刊誌記事がスレにはコピペされ、長子さんへの攻撃が続けられていた。
「そろそろ富岡茂永氏が宮司に復帰するのでしょうか?」
レスを見ていくと、神社の内情に詳しい人間としか思えない内容が少なくない。たとえば、神社本庁からの離脱については、発表・報道が確認できない6月末の時点で、
「富岡八幡宮が、神社本庁を離脱する手続きに入ってることが判明!!」
といった情報が書き込まれている。また、関係者の間で出回っていたとされる「怪文書」の中身、また神社に関わる裁判の詳細などにも、真偽不明ながらも言及があり、複数の「事情通」がスレに出入りしていることがうかがえる。
いったい投稿者は何者なのか。中には、こんな書き込みもある。
「富岡茂永元宮司が、最近江東区に帰ってきたとの書き込みをみましたが、本当なのでしょうか?この6年ぐらいは、お姉さんの富岡長子氏が宮司の代理をつとめているそうですが、そろそろ富岡茂永氏が宮司に復帰するのでしょうか?」(6月22日)
これを含め、妙に茂永容疑者を持ち上げるような投稿が複数見られる。
2ちゃんねるで「自作自演」疑われる
また7月3日には、
「総代の一人です。今日(正確には昨日です)、私の家に茂永宮司が来ました。神社本庁に提出した書類と証拠のコピーを持って持ってこられ、色々と、これまでの経緯を伺いました。そして、このコーナー(※編注:2ちゃんねるのスレを指すか)を読むように言われ、読んでみましたが、(中略)ハッキリいって、俺たち総代をナイガシロにした、神社の姿勢に相当ムカついています。これから幹部で相談して、対応を考えていと思います」
「崇敬者を蔑(ないがし)ろにした宮司の神に弓引く行為、氏子崇敬会や神社協力会の方々にも伝えないといけないね」
「町会の役員をしてるものです。総代に来てもらい、話を聞き、証拠のコピーなんかを見せてもらいました。アミ車だか人力車だかしらねぇが、氏子をナメテますね。『あいつ』調子に乗りすぎでしょう」
など、「茂永容疑者に2ちゃんねるを見るよう促された」と称する氏子らの書き込みが相次いだ。これが本当なら、少なくとも茂永容疑者がこのスレを閲覧していたことは間違いない。
さらにいえば、上記3件の書き込みはいずれも3日未明、午前1時~4時という時間帯である。「総代」や「町会の役員」たちが、いくら見ることを勧められたとはいえ、わざわざ真夜中に2ちゃんねるにやってきて、しかも書き込みまでするだろうか。
実際、スレでは茂永容疑者を擁護するようなレスについて、
「お前モエ(※編注:茂永容疑者を指すとみられる)だろ」
「モエの自作自演はしつこいねw」
といった揶揄が複数確認できる。
なお茂永容疑者は実際に7月ごろ、複数の氏子らに電話をかけ、長子さんへの中傷や宮司への未練を伝えていたと報じられている(朝日新聞ウェブ版、8日掲載)。
殺害された宮司はブログに意味深投稿
スレッドは8月後半ごろから停滞し、事件前の書き込みは11月18日の「晴明公」を名乗る人物による、
「東条さんは、てはずととのっとるって言うってったなあ。悪神道、悪仏教、悪キリスト使いたそうやな」
なる意味不明のものが最後となっている。
一方、殺害された長子さんは8月からブログを開始、事件当日までほぼ毎日更新していた。
内容の多くは神職の日常をつづったものだが、中には「ある神社の神主」によるセクハラ行為への怒りや、「怪文書」への言及などもある。8月26日の「お金では買えないもの」という記事には、誰かを名指しする形ではないが、こんな述懐が含まれている。
「阿修羅の道を歩いてしまうと、その地獄からは中々抜け出す事が出来なくなります。自分の両親や妻子を捨て、質の悪い人間に騙され欲望のままに暮らし、質の悪い人間と共に生地獄に落ちた人達は、疑心暗鬼等の鬼の世界に支配され、自分達の不幸を全て他人のせいにして、自分達の行いと向き合おうとせず、抜け出せない生地獄のループに陥るのです」