「ビワなどの未熟な果実や種子(たね)には、天然の有害物質が含まれています」。農林水産省が2017年12月6日、ウェブサイトでこう注意喚起した。「ビワの種ががんに効く」という根拠のないうわさが出回り、種を粉末にした食品が出ている。
こうした食品は複数、回収されている。だがインターネット上では、「体にいいビワの種」とうたったメニューが紹介されており、注意が必要だ。
青酸を含むシアン化合物を大量摂取の恐れ
農水省によると、ビワのほかアンズやウメ、モモ、スモモ、オウトウ(サクランボ)といったバラ科植物の未熟な果実や種には、「アミグダリン」「プルナシン」という青酸を含む有害物質が多く含まれる。これら物質は総称して「シアン化合物」と呼ばれる。熟した果実には、わずかしか含まれないので心配はない。
ところが、アミグダリンが「ビタミンの一種」「ビタミンB17」と称した例や、「がんに効果がある」とうたう情報が、書籍やネット上で見られると指摘する。実際はアミグダリンをビタミンとする説は既に否定されており、その有効性に関する十分な科学的根拠はない。むしろ健康被害が懸念され、海外ではアミグダリンを含むアンズの種を大量に食べた末に死亡した例が報告されている。
農水省が特に注意を促しているのは、種を粉末状に加工した食品だ。「シアン化合物を一度に大量に食べてしまう可能性が高まります」と説明している。サイト上にある「関連リンク」をクリックすると、消費者庁リコール情報サイトで公表されている、回収や返金対象となったビワの種の粉末食品が閲覧できる。実際に行政や自主検査でシアン化合物が検出された製品で、健康被害が出る恐れがあるという。
「ビタミン説」「がんが治る」根拠なし
農水省は、レシピサイトに掲載されているビワの種を使った料理にも警鐘を鳴らしている。大手サイト「クックパッド」には、注意喚起が出た12月6日時点ではまだ、ビワの種の粉を使った杏仁豆腐のレシピが複数紹介されていたが、8日には削除されていた。それでも、種を酒や酢に漬けこんだレシピにはビワの種について「栄養豊富で薬効もあるようです」「血液サラサラ、免疫力高める成分が含まれているらしい」「ビタミン17が含まれている」との記述がそのままになっている。
別のレシピサイトや個人ブログには今も、「ビワの種の杏仁豆腐」のレシピが残っているところがある。種を乾燥させて皮をむき、刻んだりおろしたりして使うというのだ。ビワの種の粉末を取り扱い続けているインターネット通販業者もある。あるまとめサイトはビワの種の「抗がん作用」をうたい、末期がんと診断された犬にビワの種の粉末を与えたら数週間でがんが治ったという「エピソード」まで披露していた。
国立健康・栄養研究所のサイトによると、過去にアミグダリンをビタミンB17と呼び、ビタミンとする主張があったが、現在では否定されており、「ビタミン17と呼ぶことは適切ではありません」と断定している。
がんとの関係について、「アミグダリンはビタミンの一つ」「アミグダリンの欠乏ががんや生活習慣病の原因となる」「アミグダリンはがん細胞だけを攻撃する」というのは、科学的根拠が現時点で確認できていない、または否定されていると同研究所では説明。米国国立がん研究所も「むしろがんの治療、改善および安定化、関連症状の改善や延命に対しいずれも効果がなく、むしろ青酸中毒をおこす危険性がある」と結論を出している。海外では、がん患者がアミグダリン3グラムを摂取した後に深いこん睡やけいれんを起こし、その後死亡した事例がある。