古代エジプトやギリシャ、中国、日本の「古事記」の時代から「元気の出る食べ物」として頼りにされてきたニンニク。最近はがん予防でも脚光を浴びているが、感染症を引き起こす細菌を殺傷するパワーがあることがわかった。
デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームが、ニンニクの成分が病原菌の中でも特に悪質な2種類の細菌を同時に退治することを突きとめ、科学誌「Nature Scientific Reports」(電子版)の2017年11月16日号に発表した。
ニンニクのくさいニオイ成分にスゴイ健康効果
コペンハーゲン大学のプレスリリースによると、同大学では2005年から足掛け12年間、ニンニクの細菌に対する影響力の研究を続けてきた。今回、ティム・ホルム・ヤコブセン教授らが、ニンニクが含んでいる、あのニオイの元である硫黄(いおう)化合物の1種「アジョエン」が、細菌の中でも特に大きな感染症の被害を人間に及ぼす2種類の仲間に、「壊滅的な打撃」を与えることを発見した。
2種類の細菌とは、「黄色ブドウ球菌」と「緑膿菌」だ。黄色ブドウ球菌は毒性が非常に強く、食中毒の原因になったり、肺炎や髄膜炎、敗血症など致死的になる感染症を引き起こしたりする。一方、緑膿菌は土壌や口の中など、どこにでもいる常在菌で、毒性は弱い。しかし、体力が弱り免疫力が落ちると、ほかの病原菌と一緒に感染(混合感染)し、悪性度を一気に増して呼吸器感染症、尿路感染症、敗血症などを引き起こす。抗生物質に対する抵抗力が強いことも厄介な性質だ。
ニンニクの成分アジョエンは、これらの菌の遺伝子情報をつかさどるRNA分子の情報伝達回路を遮断、また、菌の周囲を覆っている保護膜(バリア)を破壊して、菌の繁殖力を大幅にそいでしまうことがわかった。
ヤコブセン教授はプレスリリースの中でこう語っている。
「これら2つの細菌はまったく違う種類ですが、ともに人間にとって脅威となる細菌です。それを同時に退治する物質などなかなか見つけることができません。ニンニク化合物はすぐに両方と戦うことができるので、抗生物質と一緒に使用すると、耐性菌に対する効果的な薬になる可能性があります」
米国立がん研究所が推奨「がん予防食品」のトップ
ニンニクには殺菌作用のほかに、高血圧予防、コレステロール低下、血液サラサラ効果などの健康効果が知られているが、なかでも注目されているのが「がん予防」効果だ。米国では1980年代から国を挙げて「食べ物によるがん予防運動」に取り組んでいるが、1990年に米国立がん研究所が推奨する「がん予防に効果がある食品群」(デザイナーフーズ・ピラミッド)のトップにニンニクが選ばれた(イラスト参照)。
このピラミッド図は、同研究所が世界中の多くの研究成果を元に、上に行くほどがんの予防効果が高く、重要な食品になると選んだものだ。同研究所がニンニクをトップに上げた理由は、あのくさいニオイ成分の1つ「アリシン」に注目したからだ。アリシンは硫黄を含んだ揮発性の高い不安定な物質で、ニンニクを刻んだり、すりおろしたりすると、すぐに様々な硫黄化合物に変化する。実はアジョエンもアリシンが変化した化合物の1つだ。
アリシンが変化した硫黄化合物の1つ「ジアリルジスルフィド」ががん細胞の増殖を抑えるばかりか、がん細胞を正常な細胞に変える働きをする。また、同じく「S-アリルシスティン」が、がん細胞を攻撃する免疫細胞のNK細胞を活性化させることもわかった。多くの研究では、とくに胃がんと大腸がんに効果が期待でき、中にはがん細胞が消滅した例もある。しかし、肺がんや乳がんには効果は薄いようだ。それに、現在は人間への実証はまだで、あくまでマウスなどの動物実験の段階だ。