保育無償化をめぐる政府・与党の議論がもつれている。3~5歳児では認可保育園は全員無料、認可外は金額に上限を設けて助成する方向になったほか、0~2歳児の無償化は、住民税の非課税世帯に限るというのが大枠だが、2017年12月上旬に「人づくり革命」の2兆円政策パッケージをまとめる段階までには細部を詰め切れず、2018年夏に結論を先送りすることに。
衆院選で安倍晋三首相が「3~5歳のすべての子どもを無償化」とぶち上げたものの、実際の制度をどう設計するかという手順がないままの「見切り発車」だったツケが回ってきたようだ。
選挙戦で訴え
金額的な枠としては、保育支援は総額1兆1000億円とし、うち8000億円を消費税増税分のなかから保育無償化に当て、3000億円は企業に拠出してもらい、保育所などの施設整備を進めることになっている。
この中でも最大の論点になっているのが3~5歳の保育無料化、特に認可外保育園の扱いだ。
保育無料化は、首相が選挙戦で、3~5歳のすべての子どもについて幼稚園・保育園の費用を無償にすると訴えたのが発端。消費税増税(2019年10月に8%→10%)の増収分の一部を子育て支援に充てるという公約の具体的使途だ。
ところが、選挙後の政府内の協議は迷走する。財源や保育の質を懸念する財務省や厚生労働省が、「認可外保育施設は無償化の対象外」とする方向で検討していると報道されたところ、認可保育園に入れたくても入れられなかった保護者らが反発。11月20日の衆議院代表質問でも、野党から「無償化はウソではないか。認可外は無償になるのか」などと突っ込まれ、首相は「認可外を無償化の対象外とする方針を決めた事実は全くない」と釈明に追われた。
青天井なら「金持ち優遇」批判も
結局、認可外も対象に含めることにはなったが、次に問題になったのが、保育料のうちどの程度まで助成するかという線引き。認可保育園の助成については、政府・与党の検討過程で、当初は上限を設けることになっていたが、「公約違反」との批判を受け、認可保育園については、高所得世帯も含めて保育料の全額を無料化の方向になった。
難しいのが認可外の扱い。認可外の保育料は事業者が自由に決められるので、高額な場合も多く、助成が青天井なら「金持ち優遇」との批判を招きかねない一方、認可保育園に入れないためにやむなく、保育料が高くても認可外に子どもを預けている人こそが一番困っているともいえ、議論が紛糾した。
具体的には、当初は幼稚園に通う世帯との公平性の観点から、政府が定める幼稚園の公定価格と同じ月2万5700円を上限にする案をまず検討したが、認可保育園の保育料とのバランスをとるべきだという意見が強まった。結局、認可保育園の保育料の全国平均である月約3万5000円を上限とする案を軸に検討する方向だが、対象を含め、詳細な制度設計は、近く有識者会議を立ち上げて検討し、来18年夏までに結論を出すことになった。
今回の議論で、首相が約束した「すべて無償」と言えるかは疑問だ。3~5歳児については一応、認可外も含めて対象になったという意味では「すべて」だが、認可外の助成額には制限を設けるから「すべて」無料ではない。さらに、幼稚園で延長して子どもをみる「預かり保育」、あるいは認可外でも営利性が強いベビーホテルなども助成の対象にするかなどは未定で、今後の議論にゆだねられた。
「そもそも待機児童を解消するのが...」
ただ、そもそも、無償化の前に、待機児童解消こそ優先すべきだという議論は少なくない。11月27日の衆院予算委でも自民党の田村憲久元厚労相までが「無償化はわかるが、そもそも待機児童を解消するのがまず始めだろうという意見が党内でもある」と指摘したほど。
政府は2020年度までに32万人分の保育の受け皿を進めるとして、安倍首相は「まずは受け皿づくりを先行させている」と釈明するが、計画通り整備しても待機児童は解消できないとみる関係者が多い。13年に安倍政権が策定した「待機児童解消加速化プラン」などでは自治体の予測した需要を積み上げ、目標を策定したが、保育所をつくると却って需要を喚起することになり、さらに受け皿が足りなくなるという「イタチごっこ」を繰り返している。今回の「32万人」も、17年6月までに自治体から集約して積み上げた数字。日経新聞の都市部162自治体に関する調査では、待機児童ゼロを達成可能との回答は半数にとどまり、さらに整備目標の上積みが必要という自治体が続出している(11月28日朝刊)。野村総研は5月、必要な保育整備は88万6000人分との試算を公表しており、「32万人の目標は、早晩、上積みが必要になる」と自治体関係者は指摘する。
そのためには、さらに財源が必要になり、「選挙で『無償化』というバラマキを公約したことで、肝心の保育所整備の予算確保が難しくなるジレンマに陥った」(全国紙政治部デスク)格好だ。