2017年11月19日にインドの南西部にある都市ジャイプルで、観光客のアルゼンチン人男性が牡牛に首や腹を角で突かれて死亡したとのニュースが、欧米やインドのメディアによって報じられた。
牛が神聖な生き物とされ、街中にも牛が当たり前のように存在するインドならではの事件かと思いきや、そうでもないようだ。さらに、世界の牛の事故事情を調べてみると、興味深い事実も浮かび上がってくる。
サメより牛で死亡する人のほうが多い
そもそも牛による死亡事故はインドで一般的なのだろうか。インドの英字新聞「The Times of India」は、11月22日付の記事の中で、牛による事故は増加傾向にあると指摘。
急速な都市化が進んだことで酪農用地と都市の境目が曖昧になり不法放牧が増加し、都市部にも大量の牛が生息する事態になっているという。「The Times of India」では事件のあったジャイプルの観光ガイドが取材に対し、
「(不法放牧に対して)行政が適切な対応を取らないため、これまでも道路を牛が占拠して渋滞を起こす、糞尿による悪臭などの問題が起きていた。このままでは観光客や市民が死亡事故の危険にも晒されることになる」
と答えていた。
他の国ではどうだろうか。スペインの闘牛では2016年に約30年ぶりとなる闘牛士の死亡事故が発生。2017年にもフランスでの興業で1名が死亡しているが、そもそも牛による事故リスクが高い競技で、一般的な事故とは言い難い。
米疾病対策予防センター(CDC)が2009年に発表したサポート、「アイオワ州、カンザス州、ミズーリ州、ネブラスカ州における牛による死亡事故 2003~2008年」によると、5年間で牛による死亡事故は108件で、年間平均約22人が亡くなっていることになる。
事例を見るとさすがに街中で牛に襲われたわけではなく、牧畜に携わる人たちの事故が中心だ。
海洋保全NPOの「Oceana」が発表しているデータではサメに襲われて死亡する人は全世界で年間約4人、米国人では1人とされており、サメよりも牛の事故で死亡する人のほうが多い。とはいえ、サメと牛では後者の接触機会のほうが圧倒的に多く、牛による事故が特別多いわけではなく当然の差だろう。