キリングループのキリン健康技術研究所は2017年11月24日、東京大学、学習院大学と共同で、ホップ由来のビール苦味成分がアルツハイマー病の認知機能を改善することを世界で初めて発見したと発表した。
研究成果は11月24日~26日に石川県で開かれる日本認知症学会学術集会で報告される。
ビールの苦み成分には「体脂肪を減らす」効果も
同研究所の発表資料によると、ビールに独特の香りと苦みをもたらすホップは、ビールの原料として1000年以上使われてきた。一方、ホップはヨーロッパでは薬草としても使われ続けてきたため、同研究所はホップの薬効の研究を続けている。今回発表した「苦味成分」は、ホップを熟成させることによって生まれる熟成ホップ由来苦味酸である「イソα酸」だ。実は、同研究所ではイソα酸に体脂肪を減らす効果があることを突きとめ、2017年5月に開かれたヨーロッパ醸造学会で報告している。
今回、東京大学、学習院大学と共同で、アルツハイマー病を発症し認知機能が低下した状態のマウスに7日間イソα酸を投与する実験を行なった。そして、MRI(磁気共鳴画像)装置を使い、脳の中でも特に記憶に重要な領域である海馬の活動状況を、イソα酸を投与しないマウスと比較した。その結果、次のことがわかった。
(1)アルツハイマー病の原因物質とされる老廃物「βアミロイド」は、イソα酸を投与したマウスは、投与しないマウスに比べ約50%減った。
(2)海馬内のサイトカインなどの炎症物質は、イソα酸を投与したマウスは、投与しないマウスに比べ約45%減った。
こうして、7日間という短期間のイソα酸の投与で、認知機能の低下がかなり改善されることがわかったという。マウスの寿命は約2年だから、7日間は人間でいえば、約9か月ということになる。
同研究所では今回の結果についてこうコメントしている。
「2025年には認知症患者が700万人を超えると推定されています。アルツハイマー病には十分な治療方法が開発されておらず、食事や運動などの日々の生活を通じた予防手段が注目されてきました。疫学研究では、適度な量の酒類の摂取は認知症の予防になることが報告されています。今回、ビールの苦味成分にアルツハイマー病の改善効果があることがわかりました。この成果を新しい飲料文化に生かしたいと考えています」