「ベルリンの患者」の謎解明につながるか 骨髄移植の動物実験が成功

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   「ベルリンの患者」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ドイツのベルリンで「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」に感染し、陽性と診断された米国人男性ティモシー・ブラウンさんのことだ。

   ブラウンさんはその後白血病も発症。2007年に白血病治療のため骨髄移植を受けたところ、HIV陰性となり、「骨髄移植によってHIVが治癒した症例」となった。もちろん、現在でも健康で存命だ。

   2017年11月10日、この謎の解明に取り組むための準備がようやく完了したと、オレゴン保健科学大学ワクチン・遺伝子治療研究所のヨナ・サッシャ博士らの研究チームが発表したのだ。

  • サルが人の骨髄移植の謎解明のカギとなるか(画像はインドネシアに生息するカニクイザル)
    サルが人の骨髄移植の謎解明のカギとなるか(画像はインドネシアに生息するカニクイザル)
  • サルが人の骨髄移植の謎解明のカギとなるか(画像はインドネシアに生息するカニクイザル)

人間はもちろん動物でも困難な骨髄移植

   ブラウンさんの事例は史上初めてかつ唯一のもので、今でも不明点が多い。特殊な突然変異を持つドナーからの骨髄を移植したことで免疫細胞がHIVを感染させない状態となったことは確認されているが、その再現に成功できていないのだ。 2009年にはブラウンさんと同じように白血病も発症したHIV感染者6人が骨髄移植を受けたが、4人は移植直後に死亡し、2人も拒絶反応や合併症に苦しみながら1年後に死亡している。

   こうした人体実験のような研究を続けるわけにはいかず、まずは動物実験、それも人間に近い霊長類で骨髄移植を行い、ブラウンさんの体内で起きたことを再現・確認する必要があった。

   適当なサルを対象として移植を行えば済む話のようにも思えるが、骨髄移植は移植手術の中でも特に困難なもののひとつ。ドナーと患者の骨髄に含まれる免疫細胞のたんぱく質が正確に一致している必要がある。

   一致していない場合、患者の体が移植された骨髄を拒否する拒絶反応や、その逆に移植骨髄が患者の体を拒否する「移植片対宿主病」などを引き起こしてしまう。こうなってしまうと免疫抑制剤を投与しなければならず、HIV治療どころではなく、とても体内の変化など確認できない。

   霊長類の実験ではインドや中国南部に生息し、日本でも外来種として定着している「アカゲザル」を用いることが一般的だが、アカゲザルは遺伝的に多様で免疫細胞のたんぱく質も複雑になっており、一致するドナーを見つけるのはほぼ不可能な状態。強引に移植を行っても生存は難しかった。

   そこでサッシャ博士らはアフリカ大陸南東にあるモーリシャス島に生息する「カニクイザル」に注目した。モーリシャスのカニクイザルは500年前にわずか5頭の群から生息が始まったことが確認されており遺伝的な多様性に乏しく、骨髄移植でマッチする組み合わせを見つけやすい。

   発表によると1年前に骨髄移植を実施された2頭のカニクイザルは、今のところどちらも健康に問題はなく、元気に過ごしているという。

HIVからほかの血液関連疾患まで

   研究結果だけを見ればサルの骨髄移植が成功した話に過ぎないが、移植手術後に一切の拒絶反応も起きず、合併症なども起こしていないというのは大きな進歩だ。人の骨髄移植ですらしばしば移植後にさまざまな問題が生じて苦しむ例がある。

   ブラウンさんの体内で何が起きたのか検証できるだけでなく、移植手術にまつわるさまざまな問題を検証することも可能になったのだ。

   サッシャ博士は11月10日付の米「Newsweek」の取材に対し、

「白血病はもちろん、鎌状赤血球症などの他の血液関連疾患の患者の移植にまつわる現象も動物実験で確認することができる。10年後には免疫抑制剤などを使わなくても移植後に起きる副反応をなくすことが可能になるだろう」

とコメント。HIV研究にも大いに寄与できると話しており、すでに企業や他の研究者たちから関心が寄せられ、協力を依頼されていることも明かしている。

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